Vol.105「燈台めざして」 ヴァージニア・ウルフ
下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「イギリス文学案内」(朝日出版社)より引用しています。 |
燈台めざして To the Lighthouse(1927)長編小説
ヴァージニア・ウルフ Virginia Woolf(1882-1941) 小説家
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解説
1927年に出版されたウルフの代表作で、スコットランドのヘブリディーズ諸島の中の一つであるスカイ島を舞台に、ラムジー夫人を中心にした登場人物たちの意識の世界を描写し、幻想と現実が交錯した象徴的な名作である。この長編は3部にわかれ、第1部は第1次大戦前の9月のある午後から夜にかけて、第2部はその後の10年間、第3部では10年後の9月のある朝から正午までが描かれている。
梗概
第1部「窓」(The Window)
燈台がよく見える別荘の窓のそばで、ラムジー夫人(Mrs. Ramsay)は6歳になる末子のジェイムズに、明日天気がよければ燈台へつれていってもらえるだろうといったが、このころテラスを散歩していたラムジー教授は、天気がだめだといった。ラムジー教授は哲学者で、この夏、別荘には哲学を学んでいる学生タンズリー、画家ブリスコー嬢、子どもたちに人気のある老詩人カーマイクル、植物学者バンクス氏などが滞在していた。50歳になり8人の子どもがあるラムジー夫人は、親切な美しい女性で、滞在している人たちを心からもてなし、みんなに好感を与えていた。夫人は明日の燈台行きにそなえて、灯台守の子どもに贈る靴下をあんでいた。子どもたちは午後のひとときクリケットを楽しみ、教授は学生と語り合い、カーマイクルは居眠りをし、絵をかいていたブリスコー嬢はバンクス氏と散歩に出かけた。夫人は失敗者だという意識をもっている夫を尊敬しており、自信をもたせてやる。晩さんには一同が集まる。そのあとで夕食に遅れた別荘に泊まっている若い青年男女ポールとミンタが婚約したことを夫人は知った。夫はスコットの小説を読み、夫人は靴下を編んでいたが、夜がふけると外は暴風雨となり、二人は燈台行きをあきらめて寝についた。その夏は悪天候がつづいて、ついに燈台行きは実現しなかった。
第2部「時は過ぎゆく」(Time Passes)
その後数年間、ラムジー家はこの古い大きな別荘を訪れなかった。その間ラムジー夫人は世を去り、長女プルーは結婚後、出産のときに死んだ。長男アンドルーは第1次大戦に出征して戦死した。カーマイクルは詩集を出版して名声をえた。こうして10年が過ぎ、戦争が終わると、みんながやってくるというので、別荘の老管理人たちは、荒れた別荘を掃除して迎える準備をととのえた。
第3部「燈台」(The Lighthouse)
9月も終わりに近いある日、10年前と同じようにブリスコー嬢やカーマイクル氏など数人の滞在客がこの別荘に集まった。ラムジー教授は子どもたちを連れて、長年果たせなかった燈台行きを実現するため、急いで朝食をすませると海へ出かけた。数時間後、帆船は無事に燈台へ着く。一方別荘の芝生から帆船を眺めていたブリスコー嬢は、やっと絵の構図をとらえることに成功する。
「燈台へ」
著者: ヴァージニア・ウルフ