Vol.103「こわれがめ」クライスト
下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「ドイツ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。 |
こわれがめ Der zerbrochene Krug(完成1806,初演1808,刊行1811)喜劇
ハインリッヒ・フォン・クライスト Heinrich von Kleist(1777-1811)
ドイツの劇作家
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あらすじ
第1場 オランダの田舎の裁判所の一室。裁判官アダムは、顔や頭にたいへんな傷を負っている。彼は書記に向かってこの傷は、今朝思いがけない出来事で受けたものだ、と説明している。書記は、法律顧問官が視察のため急に当裁判所に来ることになったと告げる。
第2〜5場 アダムはあわてて所内を清掃・整頓させる。ついでかつらを探させるが見つからない。やがて顧問官が来所し、裁判の開始を命令する。アダムはかつらをつけずに現れたため、その負傷を顧問官に見られてしまう。
第6場 こわれたかめをかかえた老婆とその娘、そして娘の婚約者の三人が出廷する。
第7場 アダムは気分のすぐれぬことを口実に、書記に審理を代行させようとしたり、娘にささやきかけようとしたりして、顧問官に注意を受ける。老婆が陳述をはじめる。昨夜許婚の青年が娘の部屋に押し入り、騒動を起こして家宝のかめをこわした上に娘の評判に傷をつけた、と申し立てる。が、青年はそれを否定し無実を主張する。しかし、アダムは彼を強引に容疑者扱いにしたため、ふたたび顧問官の注意を受ける。訊問された被告は、許嫁が男を室内に引き入れようとしているのを目撃したからこそ乱入したのだ、と申し立てる。ついで娘が訊問される番になると、アダムはその陳述を阻止しようとする。
第8〜10場 顧問官から審理続行の指示をうけた娘は、被告は犯人ではなく、真犯人の名は、ここでは挙げられないという。アダムは審理を中断し、明日に延期しようと提案するが、顧問官は許さない。やがて証人が娘の部屋の窓際で拾ったというかつらを持って出廷する。アダムはそれが自分のものであることを認めるが、顧問官から判決を下すよう迫られ、青年に対して強引に有罪を宣告する。娘は驚いて、かめをこわした犯人はアダムだと叫ぶ。そしてついに事の次第、———昨夜アダムが侵入してきて、お前の許婚は徴兵によって東インドへ派遣されることになったが、自分の言うことを聞けば、徴兵免除の手続をとってやろう、と脅した一件を告白してしまう。
付記
一枚のフランスの銅版画に描かれた法廷のシーンから文学作品をつくることを三人の友人と申し合わせた結果、クライストはこの喜劇をつくった。ゲーテによる初演は、彼が3幕に圧縮したため、この劇のすぐれた効果を台なしにしてしまい、失敗に終わった。以後10年間上演されなかった。ヘッベルはこの劇の着想と構成のすばらしさを絶讃した。現在ではドイツ三大喜劇のひとつとして、高く評価されている。
「こわれがめ」
著者: クライスト
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