前の記事へ |  トップページへ |  次の記事へ

Vol.100「感情教育」 フロベール

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「フランス文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


感情教育 l’Education sentimentale(1869)小説

ギュスターヴ・フロベール Gustave Flaubert18211880 小説家

……………………………………………………

あらすじ

 

 シャンパーニュ地方の小さな町ノジャン・シュル・セーヌ出身の青年フレデリック・モローは同郷の友人デロリエとともに法科の学生である。文学的、芸術的、社交的野心の漠然と混じりあう不安を抱くフレデリックは、画商で美術新聞を発行しているアルヌー氏の夫人マリのサロンの常連となり、郷里の隣人ロックの紹介で銀行家ダンブルーズ夫人の交際社会をも知る。アルヌー夫人は、少しも愛していない夫にあくまで忠実であり、彼女を恋してしまったフレデリックは動きがとれない。

 

 卒業後、傾いた家計を助けるために帰郷、数年後、伯父の相当な遺産を相続したのをきっかけに、彼を愛し、結婚の約束のある隣家のロックの娘ルイーズを残して、再び上京する。アルヌー氏は失敗して、瀬戸物商となっていた。氏の情婦で肉感的だが低俗な娼婦ロザネットを知り、再び燃え始めたアルヌー夫人への真剣な恋とのあいだにゆらぐ。ついに夫人はあいびきを約束したが、子供の急病のために行かれない。そうとは知らず怒り狂い、夫人への愛が消えたと感じ、欲情と悲しみで泣きながらロザネットのもとへ行く。

 

 ふたりはフォンテヌブローの森に居を定め、1848年の2月革命の勃発した時、自然のリズムの中にひたって暮らしていたが、ロザネットの下品さと圧制ぶりに悩み、ふたりの間にできた子も死んだ。

 

 パリに戻った彼は政治的野心を満たすためダンブルーズ夫人に近づき、恋人となるが、代議士選挙には落ちる。夫人が夫を失い、あとがまにはまれる時になって、彼女が彼のアルヌー夫人への愛についてからかったために、かっとなり、訣別する。感受性に富み、知力の優れたフレデリックは、ことごとに印象を強く受けやすく、決定的な行為は一時の激情にかられてすることになり、理想を抱く鋭敏さはあってもそれを実現できないのだ。アルヌー家は破産してパリを去ってい、彼は故郷に戻り、ルイーズと結婚しようとするが、ルイーズは、彼の旧友デロリエと結婚するところだった。失意の彼は旅に出る。

 

 年月は流れ、1867年、突然アルヌー夫人が来訪し、愛し合っているばかりでなく激しい情欲を感じさえしたが、昔の理想的愛の記憶が新しい行為をさまたげた。夫人は白くなった毛の房を切って残し、去る。フレデリックはデロリエと、学生時代をなつかしむのだった。

 

……………………………………………………………

解説

  『ボヴァリ夫人』の女主人公の“失敗”の悲劇的急速進行に比して、フレデリックの“失敗”は、男性であるためにも悲劇にはならず、結局凡庸な(普通な)人間に終わったというだけのことで、最初の夢に対しての相対的なものに過ぎない。このため、発表当時は『ボヴァリ夫人』と違って評判にならなかったが、文章のリズムさえが日常生活そのもののように単調に作られているこの作品の完成度と内容の真実味は、やがて“失敗の人生”を描く無数の小説の源泉となる影響力を持った。作者は初期に同名の作品(18431845)を書き、秘めていた。失敗の主題、抒情の高揚と現実探求の融和で同じ性質のものだが、円熟期の作品は文体の完成はもちろん、2月革命前後のパリの細緻な描写で優れている


「感情教育」
著者: フロベール

こちらから購入できます

2011/12/06