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Vol.95「悪魔の霊液」 ホフマン

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「ドイツ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


悪魔の霊液 Die Elixiere des Teufels(第1部 1815、第2部 1816長篇小説

エルンスト・テーオドーア・アマデーウス・ホフマン 

Ernst Theodor Amadeus Hoffmann17761822) 

ドイツの小説家

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 あらすじ

 

 「悪魔の霊液」とは、昔、聖アントニウスを誘惑しようとたくらんだ悪魔が、聖アントニウスに贈った飲み物である。聖者はそれを洞窟に隠しておいた、後年、メダルドゥスというドイツの青年僧が、ふとした機会にそれを手に入れ、ひと口飲んだとたん、魔力のとりこになる。僧は日夜みだらな夢にさいなまれ、その夢の中に現れる未知の女性に恋い焦がれるようになった。ついに自制心をなくした僧は、その女性を探すために僧院の脱出をはかったが、折よく僧院長からローマへの出張を命じられた。

 

 ローマへ向かう途中、「悪魔の淵」と呼ばれる難所にさしかかったとき、僧は人影を認めて声をかけた。するとその人は、驚いたひょうしに、断崖から墜ちて死んでしまった。死人は、ヴィクトリン伯爵といって、僧の姿に身をやつして恋人に会いに行く途中であった。伯爵と自分とが瓜二つであることに気づいた僧は、伯爵になりすまして、伯爵の恋人である男爵夫人を訪ねた。夫人は、夫と二人の養女との四人で暮らしていた。僧は養女のアウレーリエを一目見て驚いた。彼女こそ、かつて自分が夢に見た未知の女性だったからである。僧は誰にも気づかれずに夫人と密通をつづけた。やがて夫人は、夫の殺害を僧に依頼したが、僧は拒んだ。夫人は立腹して僧を毒殺しようと図ったが、僧に気づかれ、逆に自分の方が毒殺されてしまった。浮気の相手を失った僧は、アウレーリエに言い寄った。そこをもう一人の養女に見つかってしまったので、密告されることを恐れた僧は、その養女を殺して逃走した。

 

 山小屋にたどり着いたとき、僧は、自分とそっくりの狂気の僧とめぐりあった。やがて首都に着くと、ある侯爵の宮廷に身を寄せた。人びとは彼を歓迎したが、侯爵夫人だけは僧を嫌った。それは、彼がかつて夫人の姉を裏切った男に酷似していたためである。その男は、イタリアの公女と密通して一子を生ませたが、その子はヴィクトリンと言う名であるという。その男の肖像画を見た僧は、驚かずにはいられなかった。自分の父親だったのである。その夕方、新たに雇われた侍女が来たが、意外にもそれはアウレーリエだった。彼女は僧を告発し、僧は逮捕された。彼は死を覚悟したが、その時例の分身のような妖僧が現れて、身替りを引き受けてくれたので事なきを得た。

 

 やがて僧は、アウレーリエを口説いて、結婚を承諾させた。ところが、婚礼の当日に、あの分身の妖僧が処刑されることを知った僧は、突然恐怖に襲われ、花嫁を刺し殺して逃走した。そして数カ月後、イタリアの僧院に着いた僧は、ようやく正常な自分に返った。僧は罪業を懺悔しつつ、ひたすら修業に精進した。しばらくして故郷の僧院に帰った彼は、自叙伝を執筆しながら他界した。彼の死を最後に、呪われた彼の一族の血統は絶えた。

 


「悪魔の霊液」

著者:ホフマン

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2011/09/27