Vol.89「ハワーズ・エンド」 フォースター
下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「イギリス文学案内」(朝日出版社)より引用しています。 |
ハワーズ・エンド Howards End(1910)長編小説
エドワード・モーガン・フォースター
Edward Morgan Forster(1879-1970) 小説家
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解説 長編4作目で、フォースターの代表作の一つに数えられる。分別型の姉と情熱型の妹の姉妹と、才知にたけた実業家を中心として、階級や価値観、性格の違いから生じる不和や誤解など、様々な人間関係のむずかしさを、細かく写実的に描いている。小説の裏表紙には、「ただ結びつけられれば…」(Only connect…)という小説の中でも語られる言葉が引用されており、困難な人間社会に対する作者の願いが込められている。 梗概 ロンドンに住むシュレーゲル家(Schlegel)姉妹の妹ヘレン(Helen)は、実業家ウィルコックス氏(Wilcox)の一家に招かれて、ウィルコックス夫人の所有するロンドン郊外にあるハワーズ・エンド邸に滞在していた。ヘレンは長男のポール(Paul)との間に愛情が芽生えていたが、一家の人々の反対にあって、結婚は成立しなかった。 その後、姉のマーガレットとウィルコックス夫人の間に心のこもった友情関係が生まれるが、数ヶ月後ウィルコックス夫人は病気になって亡くなってしまう。その遺言書の覚え書きには、ハワーズ・エンドの邸宅をマーガレットに与えると書いてあったが、ウィルコックス家の人々は、これを無視することにする。 シュレーゲル姉妹は音楽会の帰りに傘を間違えて持ち帰ったことをきっかけに、若く貧しい会社員バスト(Bast)と親しくしていた。姉のマーガレットは、妻に先立たれたウィルコックス氏に関心を持たれていたが、実業家の彼から、バストの勤めている会社は経営が危ないと聞かされ、バストに別の会社に移るように勧める。その情報は間違いで、結局バストはますます困窮するようになる。そんな中、マーガレットはウィルコックス氏の求婚に応じるが、妹のヘレンはバスト夫妻を連れて来て、ウィルコックス氏を責めるが相手にされない。しかもバスト夫人が、かつてウィルコックスの愛人だったことが判明し、マーガレットは動揺するが、結婚の意志はくずれない。ヘレンは不幸なバストへの同情が愛へと変わり、彼と一夜を共にして英国から去り、姉の結婚式にも姿を見せなかった。 数ヶ月たってマーガレットは、ヘレンとハワーズ・エンド邸で再会し、妹がバストの子を宿していることを知る。姉妹に反感を持つウィルコックス家の長男チャールズ(Charles)は、金の相談に来ていたバストを壁にあった軍刀で叩き、バストは死に、チャールズは逮捕される。 やがてウィルコックス氏と新しい妻、その妹のヘレンと生まれた子供はハワーズ・エンドに暮らすようになる。新しく作成された遺言状には、ハワーズ・エンドの邸宅はマーガレットに、彼女の死後はヘレンの私生児に与えることが記されていた。 【名句】Only connect! …Only connect the prose and the passion, and both will be exalted, and human love will be seen at its highest.——ch.22 ただ結びつけることができれば!…散文と情熱が結びつけば、両方が高められて人間の愛の最高の姿がみられるだろう。
「ハワーズ・エンド」
著者: フォースター