Vol.90「アブサロム、アブサロム!」 フォークナー
下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「アメリカ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。 |
アブサロム、アブサロム! Absalom, Absalom!(1936) 長編小説
ウィリアム・フォークナー William Faulkner(1897-1962) 小説家
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サトペンの計画
トマス・サトペン(Thomas Sutpen)は19世紀初頭にヴァージニア州西部(現在のウェストヴァージニア州)の山中に生まれた貧乏白人であった。彼の10歳の時、一家はタイドウォーター地方(ヴァージニア州大西洋岸)へ移住する。文明社会で初めて奴隷制度と貧富の差の存在を知った彼は、将来は自分も黒人奴隷を所有する裕福な白人地主階級に立身しようと誓いを立て、一攫千金を求めて西インド諸島のハイチへ渡り、やがてフランス系ハイチ人の砂糖栽培業者の娘と結婚する。
だが息子チャールズが生まれ、妻に黒い血が混じっていることに気付いた彼は離婚してハイチを離れ、一人のフランス人建築家と一団の黒人たちを引き連れてヨクナパトーファ郡のジェファソンへやってくる。インディアンの酋長から百マイル平方の土地を騙し取り、2年がかりで農園と邸宅を建設する。
未来への野望
次なる野望は大農園に相応しい白人の正妻と家名を伝える世継ぎを得ることだった。彼は商人グッドヒュー・コールドフィールド(Goodhue Coldfield)の娘エレン(Ellen)に白羽の矢を立て、強引な仕方で結婚する。息子ヘンリー(Henry)と娘ジューディス(Judith)が生まれる。
成長したヘンリーはミシシッピ大学で10歳余り年上のチャールズ・ボン(Charles Bon)と知り合って彼の不思議な魅力の虜になり、妹ジューディスに紹介する。二人は急速に親しくなるが、それを知った父トマスは結婚を禁止する。チャールズが異母兄にあたること、結婚すれば近親相姦になることをまだ知らされていなかったヘンリーは、憤慨のあまり父子の縁を切り家督相続権も放棄して家を出る。
崩壊
南北戦争中サトペンは大佐として、チャールズとヘンリーは学徒兵として出征する。終戦近いころ二人の青年はサトペン荘園に戻ってくるのだが、すでにチャールズの素性を知っていたヘンリーは、近親相姦と白黒混交(ミヤジェネーション)に相当する妹との結婚を阻止するために彼を射殺し、再び姿を消す。
妻に先立たれ、息子をも失ったサトペンは世継ぎを得るために亡妻の年若い妹ローザ(Rosa)に「男の子が生まれたら」という条件付で求婚して激怒を買い、今度は雑役夫ウォッシュ・ジョーンズ(Wssh Jones)の孫娘に目をつけて妊娠させるが、生まれた子が女だったのを知るとあっさり彼女を捨てる。その様を見ていたウォッシュは彼を草刈鎌で斬り殺し、孫娘と赤子ともども心中してはてる。白人の住人のいなくなったサトペン荘園にチャールズが黒人女性に生ませていた子孫たちが住み着き、最後の末裔である白痴のジム・ボンド(Jim Bond)の喚きと共に火事ですべてが消えてしまう。
構成
サトペン家の物語は4人の観点から語られる。まずハーヴァード大学に出発前のクェンティン・コンプソンがローザに招かれて憎悪にみちた話を聞かされる。次に瞑想的でシニカルな彼の父コンプソン氏の語りがくる。最後にハーヴァード大学の学寮でクェンティンとカナダ出身のシュリーヴ・マッキャノン(Shreve McCannon)が対話する。
【名句】Shreve: “Why do you hate the South?”/Quentin:“I don’t hate it”(シュリーヴ「なぜ君は南部を憎むのだ」/クェンティン「憎んではいない」)
「アブサロム、アブサロム!」
著者:フォークナー