Vol.87「ヴィルヘルム・テル」 シラー
下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「ドイツ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。 |
ヴィルヘルム・テル Wilhelm Tell(1804) 5幕の戯曲
フリードリヒ・フォン・シラー Friedrich von Schiller(1759-1805)
ドイツの劇作家・詩人
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あらすじ 中世盛期ドイツ皇帝を僭称するオーストリアのアルブレヒト侯爵は、スイスに腹心の代官を派遣して圧政を敷かせ、暴利をむさぼっていた。代官たちの専横ぶりには目に余るものがあり、築城に際しては労働者たちを牛馬のごとく酷使し、果ては、人民たちをつねに権力に盲従させんがために一計を案じ、村道沿いに竿を立ててその上に代官の帽子を置き、その前を通行する場合には必ず敬礼を行うよう強制する者まであらわれた。 ここにおいて、スイス三州を代表する人たちはリュトリで会合を開き、スイス古来の権利と自由を擁護することを決議し、同盟を結んで、無血革命の準備をすすめる。 ここに主人公ヴィルヘルム・テルが登場する。自由と正義とを尊ぶ勇猛な愛国者でありながら、日頃静かで平和な生活を愛する彼は、同胞に要請されても蜂起の同盟には加わろうとしない。たまたま例の帽子の前を通りすぎたテルは、敬意を表さなかったという理由で、代官から難題を持ちかけられる。子供の頭上にリンゴをのせ、それを弓で射落としてみよ、というのである。戦慄しつつわが子と対したテルは、みごと一矢でリンゴを射落とす。この時、第二の矢を用意した理由を問われたテルは、万一失敗に終わった場合には、それで代官を射るつもりだったと答える。代官はテルを捕縛し、自分の居城に連行する。 湖水をわたる途中、嵐が襲う。危険を感じて自信を失った船頭は、テルの縄を解いて、代わりに漕ぐよう依頼する。岩に近づいたとき、テルは力いっぱいに舟を蹴って転覆させ、自身は岩に飛び移って、あやうく危難をまぬがれる。こうして、さしも温厚であったテルの胸にも復讐の念は燃えさかり路傍に待ちうけて一矢のもとに代官を射殺す。 ここに至って三州の人びとはいっせいに蜂起した。やがて平和と自由とを獲得した人びとは、「弓の名人、われらの救い主、テル万歳!」と歓呼しつづける。 付記 スイスの農民一揆の指導者テルの伝説を、ゲーテから聞いたシラーは、これに弓の名手がリンゴを射落として賞讃を受けるという古来の伝説を結びつけ、シラー自身の自由の理念を盛り込んでこの作品をつくりあげた。一度も行ったことのないスイスの風物を、文献上の知識と豊かな想像力とを駆使してみごとに描いたこの民衆劇は、すばらしい迫真性を持ち、ヴァイマルでの初演において、シラーの作品中最高の成功を収めた。
「ヴィルヘルム・テル」
著者: シラー