Vol.81「夏の夜の夢」 シェイクスピア
下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「イギリス文学案内」(朝日出版社)より引用しています。 |
夏の夜の夢 A Midsummer-Night’s Dream(1595-1596)[5幕]喜劇
ウィリアム・シェイクスピア William Shakespeare(1564-1616) 劇作家・詩人
……………………………………………………
作品について 1595年から1596年ころに書かれ、1600年に4つ折り版で出版された。アセンズの宮殿と妖精の出没する月夜の森を舞台に、シーシアスとヒポリタの婚礼や若いふた組の男女の恋の葛藤を中心とする貴族の世界と超自然的な妖精の世界と婚礼祝いの愉快な素人芝居を演じる職人仲間の3つの世界が融合して展開する華やかな夢幻劇で、ある貴族の結婚祝賀のために書かれたという説もあるほど明るく楽しい雰囲気に満ちている。 材源は「テンペスト」同様はっきりしない。上演に際してはメンデルスゾーン作曲の劇音楽がよく使用される。美しい歌や踊りもあって音楽スペクタクルの感じが濃い。 梗概 アセンズの大公シーシアスとアマゾンの女王ヒポリタの結婚式が真近に迫ったある日、老臣イジーアスの娘で背の低い美女ハーミアは、父の選ぶ結婚相手のディミートリアスを嫌い、愛する青年ライサンダーとの結婚を希望するが、大公は父親の命令を拒否すれば、死刑か尼寺行きだと言い渡す。ハーミアとライサンダーは厳しい法律を嘆き、近くの森で会って、国法のおよばないところへ駈落ちすることとなる。するとハーミアを思うディミートリアスはその後を追い、ディミートリアスを恋い慕う背の高い美女ヘレナも、泣きながらディミートリアスを追って森へ向かう。 こうして4人の男女は森へまぎれ込む。妖精王のオベロンはヘレナをかわいそうに思い、ディミートリアスとの恋をうまくまとめようとして、ディミートリアスの目に恋の草汁を塗るようにパックに命じる。しかしいたずら者の妖精で矢よりも速く跳び走り、40分で地球に帯をかけてみせるというパックが、恋の草汁をライサンダーの目に塗りつけたために、恋人関係に大混乱が起こる。 そのころアセンズの職人たちは、同じ森の中で大公の結婚式を祝う芝居の稽古をしている。いたずら者のパックは織物屋のボトムにロバの頭をかぶせたので、他の職人たちは驚いて逃げ去り、ボトムは自分がロバに変えられたのに気づかず、歌をうたって歩きまわる。その歌声で妖精の女王ティターニアが目を覚ます。ティターニアはオベロンとけんかの最中であり、オベロンはティターニアの目に一目惚れの恋の草汁を塗っておいたので、彼女はロバになったボトムに惚れ込んで口説き出す。しかしオベロンは女王の姿があわれになり、魔法をといて仲直りし、また4人の恋人たちも眠っている間にオベロンの力で正常の状態にもどされる。そしてシーシアス大公の許しを得て、ライサンダーとハーミア、ディミートリアスとヘレナは大公と一緒に結婚式をあげることになる。 結婚式の夜、ボトムたちは宮殿においてピラマスとシスビの世にもあわれな悲劇を失敗だらけで演じ大喝采をあびる。深夜12時の鐘を合図に、妖精たちが宮殿に現われ、歌と踊りで3組の結婚を祝福して終わる。 【名句】The course of true love never did run smooth.—Lysander.I,i,134 まことの恋が平穏無事に進んだためしはなかった
「夏の夜の夢」
著者: シェイクスピア