Vol.78「ティファニーで朝食を」 カポーティ
下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「アメリカ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。 |
ティファニーで朝食を Breakfast at Tiffany’s(1958)中編小説
トルーマン・カポーティ Truman Capote(1924-1984) 小説家
宝飾店ティファニー
第2次大戦中のニューヨークで同じアパートの住人だった風変わりな女性ホリーを、作家志望の青年が一人称で回想する。有名な宝飾店ティファニーは、ホリーが「忌ま忌ましい赤」の気分に襲われると訪れる、彼女に安心感を与える場所である。彼女にとって何よりも大事なのは、自由な自分である。世間の荒波に揉まれながら、ホリーは不思議とイノセンスを保ち続け、自分を希求し続ける。なお、『ティファニーで朝食を』初版は、表題作のほか、3編の短編作品を収録している。
旅と自由
語り手の下の階に住むホリー・ゴライトリー(Holly Golightly)と名乗る18歳の女性の郵便受けには「旅行中」の文字があり、部屋にはいつでも旅に出られそうな雰囲気がある。ギターを弾いては「空の牧場」を旅する歌を歌い、飼い猫には名前をつけていない。動物園などの檻に入った動物を見るのを嫌い、クリスマスには語り手に宮殿のような鳥籠を贈るが、中には動物を入れないように頼む。語り手の彼女への贈物はティファニーで買った聖クリストファーの旅のお守りだった。
ホリーは夜になると上品に着飾って出かけ、金持ちの男性たちから化粧室代やタクシー代として多額のチップをもらう。また毎週シンシン刑務所にいるサリー・トマト(Sally Tomato)を訪問して「天気予報」を持ち帰り、「弁護士」に伝えることによって、多額の報酬を得ている。
夢の追求
現在軍隊にいる弟フレッド(Fred)が彼女の唯一の心の支えである。ルラミー(Lulamae,ホリーの本名)とフレッドは両親の死後、テキサス州のゴライトリー家の庭で盗みをはたらいて見つかって以来そこに住むようになり、ホリーは14歳で4人の子持ちの獣医ゴライトリーと結婚するが、すぐに一人で家出をした。
その後ハリウッドで女優としての道が開けそうになるが、思い通りの人生を求めてニューヨークに転じる。フレッドからの知らせで獣医がホリーを迎えにくるが、彼女は一緒に帰ることを拒む。やがてフレッドの戦死が伝えられると、ホリーは錯乱状態に陥る。その後ブラジル人外交官ホセ(Jose)と同棲を始め、妊娠したホリーは家事にいそしみ、ホセとブラジルに行って結婚することにする。
ブラジルへの出発を一週間後に控えたある日、乗馬中の馬が暴走し、それがきっかけとなってホリーはのちに流産する。馬の事故と同じ日、ホリーはトマトの手先として国際麻薬組織に関与した件で逮捕される。ホセは保身からホリーを捨てる。彼女は保釈されると、予定通りブラジルに出国することを主張し、語り手が彼女の出発を見送る。その後語り手はブエノスアイレスから一通の便りを受け取り、数年後にアフリカで撮影された彼女にそっくりの木彫り彫刻の写真を目にするが、彼女が今どこにいるのかはわからない。
【名句】Anyway, home is where you feel at home. I’m still looking.(Holly)「とにかく家っていうのは、くつろげるところのことでしょ。あたしはまだ探している途中なの」
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「ティファニーで朝食を」
著者: カポーティ