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Vol.76「愛の妖精」 サンド

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「フランス文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


愛の妖精 la Petite Fadette(1919)小説

ジョルジュ・サンド George Sandspan>(18041876 小説家

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あらすじ

コッス村の物持ちの百姓バルボ家の双生児兄弟シルヴィネとランドリは深く愛し合っていた。よく似てはいたが、幼い時から弟のランドリの方が積極的で決断力があった。

14歳になった時、どちらかひとりを隣りのプリッシュ村のカイヨ家へ奉公に出すことになり、ランドリは、家を出る悲しみを引き受ける。休みの日には必ず兄に会いに戻ったが、兄の方は弟が新しい生活や知人に興味を示すのを怒り、自分といては楽しくないのだと思い、病的な嫉妬を起こす。

ある日曜、若者らしい遊びを犠牲にしてランドリが生家に帰ると、すねたシルヴィネの姿が見えず、日暮れとともに嵐が来そうになる。自殺を怖れて必死に探すランドリは、貧しいまじないばあさんの孫娘で、いたずらで嫌われているファデット(鬼火娘の意味)に会い、何でも要求に応じる約束で、兄の居所を教えてもらう。シルヴィネも反省し、ランドリがカイヨのめいで1歳上のべっぴんマドロンと親しくしても苦情をいわず、踊りもつきあうようになった。

15歳になったランドリは、秋祭の前夜、許しを得て家へ帰る途中、川で深みに入りそうになり、鬼火におびやかされる。そこへファデットが現われ、浅瀬を渡してくれる。この前の時から会っても知らん顔をしたことを責められ、物が欲しいのではなく友達らしくして欲しかったのだとやり込められ、ランドリは、翌日の祭りでファデットばかりと踊ることを誓わされる。

祭りで、ランドリは勇気を出して誓いを守り、マドロンを怒らせてしまう。ランドリはファデットが、村を出た身持ちの悪い母、びっこの弟、貧しい暮らしへの、村の子供たちのあざけりをはねかえすために気が強く意地悪になっていたことを知る。しかも、ファデットがマドロンにへり下って、悪いのは自分だと、ランドリを許すように頼むのを、立ち聞きし、ランドリはファデットの頭のよさと優しさに感心し、仲よくなる。だがマドロンが悪い噂を流し、ランドリの父が怒ったので、ファデットは町へ奉公に出る決心をする。

祖母の死で1年後に戻った時、もとからの黒い瞳が引き立つ立派な娘になっていた。しまり屋の祖母がかくしていた4万フランの大金を、ランドリの父に数えてもらいにやってくる頭の働きに感心した父は、改めて調査し、ファデットの身持ちがよいことを確かめる。

ランドリの結婚の話にシルヴィネは高熱を出す。今度もファデットは、暗示療法と対話療法でシルヴィネのわがまま病を直す。すでに評判の高かった彼女の治療はききすぎた。シルヴィネも彼女を熱愛してしまったのだ。結婚式の1か月後、彼はナポレオンの軍隊に入った。

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解説

1848年の2月革命の反動化への失望から、《現在の不幸》を慰めるために書かれ、獄中にいる共和派の同志バルベスに捧げられた。『魔の沼』(46)、『笛師の群れ』(53)とともにベリー地方の“麻打ち男”が語る物語であるが、田舎風な論理の運び以外には、とくに話者の存在を感じさせる要素はなく、方言は数語だけ。多感な思春期の少女の心理の屈折と、愛情過多のシルヴィネの神経の動きが、他の人物の農民的健全さの写実的描写との対比で、見事に浮き彫りされる。

「愛の妖精」

著者: サンド

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2010/12/08