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Vol.74「日はまた昇る」 ヘミングウェイ

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「アメリカ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


日はまた昇る The Sun Also Rises(1926) 長編小説

アーネスト・ミラー・ヘミングウェイ

Ernest Miller Hemingway18991961 小説家


処女長編

短期間で書き上げられた『春の奔流』を別にすれば、ヘミングウェイ最初の長編小説であり、作家ヘミングウェイの名を一躍広めることになった。扉に掲げられたガートルード・スタインの「あなたたちはみな失われた世代ね」という言葉にあるとおり「世代」が一つのテーマとなっている。ヘミングウェイはスタインらの世代とは違う新たな世代の誕生を世界に知らしめた。また、一人称の語りという伝統的な形式にはよっているものの、既存の長編小説にくらべ会話の占める割合が非常に多いことがこの作品の特徴である。若い世代の用いる口語スタイルで全編推し進める点が新鮮であった。のちにヘミングウェイの会話巧者ぶりは定説となったが、それは著者が20代のときにすでに確立されていたのである。

国籍離脱者

第1次世界大戦という悪夢が過ぎ去ったあと、既成の価値観と祖国を捨てパリで奔放な暮らしをする若者、いわゆる国籍離脱者たちが1920年代のパリに集まった。語り手である20代半ばのアメリカ人記者ジェイク・バーンズ(Jake Barnes)もその一人で、生きることの意味を失い、宗教にも救いを見出せず、暗闇では眠ることができない。

ジェイクの近くにはイギリスからきた34歳のブレット・アシュレー(Brett Ashley)がおり、互いに心を惹かれはするものの肉体がともなわないため二人の愛は成就しない。ブレットは第1次大戦で篤志看護婦を務め、戦中に恋人を赤痢で亡くし、その後アシュレー家に嫁いだ女性でレディの称号を持つ。その結婚はうまくいっておらず、離婚が成立すればスコットランド人のマイク・キャンベル(Mike Cambell)と結婚することになっている。しかし男たちと遊び歩き、ユダヤ人作家のロバート・コーン(Robert Cohn)とも小旅行に出かけ、ジェイクを苦しめる。

祭り

ジェイクはニューヨークからやってきた作家志望の親友ビル・ゴートン(Bill Gorton)とスペインのブルゲートへ行き、5日間鱒釣りをし、しばしの平静を得る。滞在中の宿にマイクから電報が届き、パンブローナの祭り(フィエスタ)に皆で参加することになる。7日間続く祭りの間もブレットをめぐる男たちの小競り合いは続き、最終的にはコーンが皆の反感を買い、立ち去ることになる。そんななか、ジェイクは若くハンサムな闘牛士、19歳のペドロ・ロメロ(Pedro Romero)をブレットに紹介する。祭りが終わると二人は一緒に姿を消す。

一方、ジェイクはサン・セバスチャンのホテルで一人過ごす。そこにマドリッドにいるブレットから助けを求める電報が届き、ジェイクは夜行列車で駆けつける。翌日再会すると、ブレットは若いロメロを堕落させる女にならぬよう別れを告げてきたと言う。愛を成就できないブレットとジェイクは、うまくいったはずの二人の愛を「考える」ことにより思いを清算しようとする。

【名句】It is awfully easy to be hard-boiled about everything in the daytime, but at night it is another thing. 「昼には万事にハードボイルドでいることはたやすいが、夜ともなると話は別だ」

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「日はまた昇る」

著者: ヘミングウェイ

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2010/11/24