Vol.73「虹」 ロレンス

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虹 The Rainbow(1915)長編小説
デイヴィッド・ハーバード・ロレンス
David Herbert Lawrence(1885-1930) 小説家・詩人
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解説 「息子と愛人」を完成したのち、「姉妹たち」の仮題で着手され、前半は途中で「結婚指輪」と改められ、さらに「虹」と改題して1915年に完成された。後半は「恋する女たち」と題して1916年に完成された。 「虹」はイギリス中部の農場を背景に、父子3代にわたる愛欲と結婚の種々相を描いた長編で、出版と同時に愛欲描写が露骨であるとの理由で発禁になったが、今ではロレンスの代表作のひとつとみなされている。 ………………………………………………………………
梗概 トム・ブラングウェン(Tom Brangwen)は、ノッティンガムシアに農園をもつ小地主の家に生まれた。村の牧師の家に、ポーランド生まれの未亡人でアナというひとり娘を連れたリディア・レンスキー(Lydia Lensky)が家政婦としてやって来ると、この女に関心をもつようになり、やがて彼女と結婚し、二人の男子が生まれた。しかしこの夫婦にとっては、国籍、文化、言語の違いは越えがたい溝となり、本当の結合とはいいがたく、トムは連れ子のアナに愛情をそそぐ。アナが18歳になったとき、近くのレース工場で働くトムの兄の子ウィル(Will)と相思の仲になり、二人はトムに祝福されて盛大な結婚式をあげた。 ウィルとアナの間に長女アーシュラ(Ursula)が生まれると、アナは妻としてよりも母として生きることに専念し、つぎつぎと子どもを生む。ウィルは妻で満たされない気持を長女アーシュラに傾け、夫婦の愛情は次第に離れていく。アーシュラは高等学校に入るが、ポーランド系の英国陸軍中尉アントン(Anton)と愛し合うようになる。しかしある月夜にこの2人が抱擁したとき、アントンはアーシュラの愛情があまりにも独占的なのに恐れをなして彼女から遠ざかり、南阿戦争に従軍して二人の関係は中断する。 アーシュラは高等学校を卒業し、大学入学試験に合格する。そして学資を得るために田舎の学校で2年間教師を勤め、大学では植物学を専攻しようとした。そこへ突然むかしの愛人アントンから手紙がとどき、インドから帰国したので会いたいといってくる。6年ぶりに会った二人の間には激しい情熱がわき、アーシュラは刹那的な愛欲におぼれた。二人は夏休みに夫婦気取りでヨーロッパ旅行に出かけたりしたが、自我の強いアーシュラは結婚よりも学位を強く欲し、アントンが結婚して任地へ来てほしいと要望するのを拒絶したので、二人の仲は決裂し、アントンは連隊長の娘と結婚してインドへ向かった。 アーシュラはしばらくしてから自分が妊娠していることを知った。彼女はアントンが別の女と結婚したことを知らなかったので、結婚の意志を表明した手紙を書いた。その返事のこないうちに、雨の中へとび出して肺炎にかかり、死児を流産した。回復期にあるとき、空にかかった虹を見て、「虹の中に大地の新しい建築を見た」彼女は、自分の将来に明るい希望を感じた。 「虹」 著者: ロレンス
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