Vol.69「大いなる遺産」 ディケンズ

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大いなる遺産 Great Expectations(1860-1861)長編小説
チャールズ・ディケンズ William Somerset Maugham(1812-1870) 小説家
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解説
少年が大人へと成長していく過程を、様々な出逢いと冒険を中心に、主人公ピップの語りの形式で描いたディケンズ第13番目の小説。ケントの田舎と大都会ロンドンを背景に、複雑なプロットとスリルに富む物語が最後には一つの流れとなって、幸せな結末にたどり着く。「デイヴィッド・コッパフィールド」と同類のディケンズ文学の秀作で、芸術的完成度も高く、世界中で広く愛読されている。
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梗概
私の父の姓はピリップ(Pirrip)、私の名はフィリップ(Philip)、幼い私は両方ともピップ(Pip)としか発音できなかったので、自他ともにピップで通用している。ある寒い夕暮れ時、テムズ川下流の荒涼とした沼地の教会墓地で眠っている両親の墓へ行ったとき、足枷をはめられた恐ろしい囚人と出会った。飢えた囚人に乞われるまま、気の強い私の姉と結婚している鍛冶屋のジョー・ガージャリーの家から、ヤスリと食料を盗んできて、囚人に与えた。このマグウィッチ(Magwitch)という囚人は、兵士に追われて姿を消した。事業の共同経営者コンペンソンに裏切られて悪行に走り、刑を逃れて逃走中だった。
鍛冶屋のジョーは、私より二十歳以上も年上で、力強くて優しい正直者だった。私はこの人間味豊かなジョーのもとで、鍛冶屋の弟子として修業しただけでなく、人生で大切なことを、いろいろ体得することができた。
やがて私は、バンブルチュック叔父さんの紹介で、謎の隠遁生活を送っているミス・ハヴィシャム(Miss Havisham)の遊び相手として、陰気な大邸宅に住ませてもらうことになり、そこで美しくて高慢な養女のエステラ(Estella)という少女と出会って、一目で好きになった。それからしばらくして、ミス・ハヴィシャムの弁護士であるジャガーズ氏が来て、ある匿名の慈善家が、私に「大いなる遺産」を与えてくれることになったと告げた。その遺産のおかげで、私は鍛冶屋の仕事から解放され、ロンドンへ出て紳士修業をすることになり、ハーバート・ポケットという紳士と親しくなって、大都会の生活に馴染んだ。
そんな私の前に、ある嵐の夜、例の脱獄囚のマグウィッチが姿を現わし、匿名の慈善家は自分だったという。さらにミス・ハヴィシャムは、死ぬ寸前にエステラがマグウィッチの娘であることを私に明かした。意外な真実を知って私は絶望し、偽善に満ちた紳士階級にも幻滅感を味わった。しかし、監獄にいるマグウィッチの臨終に立会って、この囚人の美しい心に触れると、あの純真な鍛冶屋のジョーが懐かしくなった。
月日は流れ、友人のハーバートとエジプトへ行っていた私が故郷へ帰ると、荒れ果てた邸宅の跡で、愛のない結婚をして未亡人になったエステラと再会した。二人は「いつまでも友達でいる」ことを誓った。おりから夕霧が晴れて、明るい未来が見えるようだった。
【名句】I don’t complain of none.—Magwitch. ch.56
わしは絶対ぐちを言わんよ。
「大いなる遺産」
著者: ディケンズ