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Vol.68「エミール」 ルソー

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「フランス文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


エミール または教育について Emile ou de l’éducation(1762)小説形式の教育論

ジャン=ジャック・ルソー Jean-Jacques Rousseau17121778) >思想家

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あらすじ


 富裕な孤児エミールが、家庭教師によって25歳まで教育を受ける過程を5部に分けている。エミールが孤児と想定されているのは家族との接触により世間の偏見が持ち込まれるのを防ぐためであり、ルソーの根本的姿勢がうかがえる。文明が人間を堕落させ、社会が人間を弱くするという、他の著書にも展開された理念が出発点となる。
 エミールは田園で自然に順応して育てられる。当時のきついベビー服を廃し、けがや苦痛から過保護にならないように放置し、あまり早くことばを教えこもうとしない。(第1部)

 5歳から12歳までは、自由な戸外活動を通じてからだを鍛え、自然との接触によって、(本来善であるところの)性格を発展させる。書物は一切与えず、理論的なことはなにも教えない。(第2部)

 12歳から15歳まで、労働の価値、技術の必要を身をもって体験させる。森で迷えば方向を定める方法を自ら発明しなければならない。また指物師に弟子入りさせ、社会生活の目を開かせ、自主的に正しく判断することを学ばせる。「ロビンソン・クルーソー」だけが許される書物である。すべての必要品を自分で作り出した人間の話だからだ。(第3部)

 15歳から20歳までは精神と徳性の教育が主体となる。人生の悲惨を観察、またプルターク英雄伝などの読書を通じて人間の心の動きを知り、愛情と哀れみの自然な発生を促す。18歳になると、エミールは教師から宗教について教えられる。これは「サヴォワの助任司祭の信仰告白」として名高い独立した挿話をなす。教師の青年時代に出会った助任司祭が、ポー川を見おろす高い山の上で宇宙の調和と、人間に自然にそなわる良心の声を信じる一種の自然神教を感動的に語る。素朴で健全な人生観を持ったエミールは、今やどんな人たちと接してもよい。(第4部)

 20歳から25歳までは政治教育である。だが一方では自然に芽生えた情念を満たすために、婚約者となる少女ソフィに引き合わされる。ソフィが受けた教育が語られるが、やはり自然に即したものとはいえ、女子ということに制約されてしまい、極めて保守的なものである。ソフィを見て愛の情念に引きずられるのを感じたエミールは、それよりも人道の権利を優先させることが、愛の純潔を実現する道だと自戒する。2年間の外国旅行で社会制度の比較研究をしてから、ソフィと結婚することに決まる。

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解説

 子供の天性を善と考えて、その自由な発展を尊重するこの理論は、その後の教育理論に大きな影響を与えた。しかし、本書の方針を細部にわたってそのまま実行せよとはルソー自身言っていない。彼自身がテレーズに生ませた5人の子供は全部施療院に捨てた。彼の理想主義的方針への実行上への反論は容易だ。しかし、当時の児童教育の実際は、ここに書かれていることの正反対だったことを考えるべきである。幼年時代とは無駄な時期で早く通り抜けるのがよいというのが、当時の通念であった。おとなのような子供が利口とされていたのである。また教会無視も本書の特色で「サヴォワの助任司祭の信仰告白」は異端説とされ、禁書となり、焼かれ、ルソーは亡命する。


「エミール」

著者: ルソー

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2010/09/22