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Vol.67「審判」 カフカ

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「ドイツ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


審判 Der Prozess(1925)書簡体の小説

フランツ・カフカ Franz Kafka18831924) ユダヤ系ドイツの詩人

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あらすじ

銀行員ヨーゼフ・Kは、30歳の誕生日を迎えた朝、刑事の来訪を受け、突然逮捕を宣告される。全く身におぼえのないKは、逮捕の理由をたずねるが、相手の男は、「君は逮捕されているのだ。すでに訴訟手続きが始まっている。時がくれば万事分かるようになる」と言うばかりである。この不可解な逮捕は、日常生活を拘束しなかったので、Kはふだんと変わらずに銀行勤めをつづける。

ある日電話がかかってきて、Kの事件の審理が行われることが通告される。日曜日に、指定された場所へ出かけてみると、そこは場末の裏長屋で、Kには裁判官の実態さえわからない。Kはもちろんこの奇妙な法廷で無罪を主張するが、何の効果もない。ついにKは予審判事をののしって、この法廷をとび出してしまう。

次の日曜日にもKは法廷へ出かけて行く。こうして彼はしだいにこのえたいの知れない法廷の魔力に引きこまれてゆく。同時に彼の生活は、破壊されてゆく。いぜんとして彼の法廷闘争は何の効果もあらわさない。法廷と裁判所の役人たちに手蔓をもっている伯父の紹介で、Kは弁護士フルトを訪ねる。しかし、Kは弁護士の秘書レーニと情事を始めたので、この訪問は台なしになってしまう。ある工場主の紹介で知り合った画家ティトレリもKを助けようとするが、結局Kを救うことはできない。

ある日、寺院のうす暗い内陣の中で、一人の僧侶に会う。僧侶はKに、「掟」についての伝説を語る。「掟」の門の前までやってきたある男が、門番に中へ入れてくれと頼む。門番は「今はだめだ」と答える。男は生涯門番を観察しつつ待ちつづける。死ぬまぎわに男は最後の力を振りしぼって門番に質問する。すると門番は、「この入口はお前のために開かれていたのだ」と答えて、門を閉ざしてしまう。Kは、彼自身の運命を象徴するこの伝説の意味を正しく理解しようとせず、誤った解釈ばかりする。

逮捕の宣言以来1年を経た誕生日の前夜、Kはフロックコートにシルクハットを着けた二人の男に連れ出され、刑場である石切り場に引き立てられた。そして正式の裁判もないまま、誰とも知れぬ陰の人物の命令によって、死刑の判決が下される。Kはその判決に逆らうこともなく、まるで「犬」のように肉切り包丁で刺し殺されてしまう。

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付記

現代人の諸問題、特に罪や掟をテーマとしたカフカの作品は、非現実的で不条理な事件を、簡潔・平易な文章で日常の事件のように淡々と描くことによって、それらの事件に異様な現実感を与えている。はっきりした罪なくして逮捕され処刑されるKの物語は、万人が犯しながら気づかないでいる現代人の原罪を追求したもので、カフカの「罪」に対する思想をよくあらわしている。


「審判」

著者: カフカ

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2010/09/09