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Vol.64「自由への道」 サルトル

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「フランス文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


自由への道 les Chemins de la liberté(Ⅰ,Ⅱ,1944;Ⅲ,1949 )長編小説

ジャン=ポール・サルトル Jean-Paul Sartre19051980) 

哲学者・劇作家・小説家

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あらすじ

第1部「分別ざかり」

1938年6月のパリ。スペインでは人民戦線政府はフランコ軍に敗退している。高校の哲学教師マチュウの関心は精神の自立である。彼は自由な立場から関係を結んでいるマルセルの妊娠を知る。非合法な中絶手術のための金策に、マチュウは疲れる。自発的な決断で自分の生涯を選ぶ機会を待っている33歳の独身男子としては、日常性の泥沼に巻き込まれて自立性を失うことに恐怖を覚えた。

白系ロシヤ人の教え子ボリスと、その姉でエクセントリックな少女イヴィッチとともに、ボリスの恋人で盛りをすぎた歌手ローラの出ているキャバレーへ行ったとき、マチュウは無意味にナイフを自分の手に突き立てる。マチュウを尊敬しているボリスは感心するが、マチュウ自身はこのようなヒロイズムの愚を悟る。

マチュウの友人でブルジョワの男色家ダニエルは、マルセルから相談を受ける。マルセルはマチュウの哲学には従順だが子供を生みたい気がある。ダニエルはマルセルと結婚することで、女と交渉を持たずに子供を持てると考える。ローラの部屋から大金を盗んだマチュウは、マルセルがダニエルと結婚する気だと知らされ、そっと金を返しておく。すべてが無駄骨に終わり、マチュウの自立性は残る。

第2部「猶予」

1938年9月のミュンヘン会談中の一週間。英仏、チェッコスロヴァキヤ首脳、テロにおびやかされる一チェッコ人の苦悩と、それに第1部に出て来た人物たちの日常性が、映画のカットの積み重ねのような手法で、同時に進行する。マチュウは動員され、歴史に参加する覚悟をするが、英仏側はチェッコスロヴァキヤを見殺しにして、戦争を回避。

第3部「魂の中の死」

1940年6月、独軍の電撃的侵攻の時期、志願兵となって負傷したボリスはマルセイユに後送されている。肉体の衰えを嘆くローラ、ブルジョワ的結婚をして、神経質なだけで鋭さを失ったイヴィッチもマルセイユにいる。飛行機で英国に脱出する最後のチャンスを捨て、ボリスはローラととどまる。

マチュウの部隊は、戦闘もせずに後退中、上級将校たちに見捨てられ、ある村で敵軍を待つ――降伏するために。だが、夜とともに前線からやって来たのは友軍の狙撃兵の一小隊で、少しでも時間をかせぐためにこの村で戦うという。誰も協力しない中で、マチュウともうひとりはこの小隊に参加する。狙撃兵たちにはマチュウが理解できない。彼らがマチュウのように予備役の応召兵だったらこんな絶望的な状況で戦いはしないだろうと言う。

翌朝、ドイツの機械化部隊の攻撃を受け、鐘楼が崩れる中で、マチュウは果たせなかった願望のために一発、一発を捧げ、射つたびに自由になった気がする。

マチュウの生死は不明で、場面はマチュウの友人ブリュネの捕虜収容所での生活に移る。コミュニストである彼は不屈の意志で組織作りを始める。この個所は、過去も未来も切り捨てられ現在しかない収容所の生活を描くため、行変えなしに動詞の現在形ばかりで書かれている。(未完)

付記

予定された第4部「最後の機会」は、書き出しの《奇妙な友情》の断片しかない。冒険家のヒロイズムと闘士の実際主義の対比で終わる。

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「自由への道」

著者: サルトル

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2010/07/27