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Vol.61「ダロウェイ夫人」 ウルフ

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「イギリス文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


ダロウェイ夫人 Mrs. Dalloway(1925)長編小説

ヴァージニア・ウルフ Virginia Woolf18821941) 小説家

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解説

ウルフが1925年に出版したこの長編は、国会議員リチャード・ダロウェイの妻で52歳になるクラリッサの人生から、第1次大戦が終わって5年後の1923年6月のある水曜日の午前10時ころから夜半近くまでの出来事をとり出し、意識の流れの手法によって、この感受性に富む中年女性の人生経験を内面的に描いた代表作のひとつで、文体は叙情詩のように美しい。

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梗概

ある晴れた日、ロンドンのウェストミンスター区に住んでいるダロウェイ夫人は、今夜の宴会に飾る花を自分で買いに出かける。さわやかな朝の空気にふれながらロンドンの街を歩いているうちに、夫人はふと30数年前、まだ18歳の娘だったころのことを回想する。彼女はグロスタシアの別荘での生活や、ピーターの熱烈な求婚を拒絶したことを思い出す。途中で古い友人のヒュー・ウィットブレッドに出会ったりしながら花屋へ着くと、花をえらぶ。突然外で銃声に似た音が聞こえる。自動車のパンクした音で群集が附近をとりまく。夫人はスウィトピーの花をかかえ、群集をわけて帰路につく。

ダロウェイ夫人が家に着くと、夫は昼食会に招待されていて不在である。夫人は淋しく2階へ上って行き、夫のことや年令のことなどを考え、前の夜会で踏まれて切れた夜会服をもって階下へおりる。応接間のソファに腰かけてその夜会服を修繕していると、ドアのベルが鳴り、昔の恋人ピーターが訪ねてくる。二人は30年前の思い出話をする。

ピーターは昔クラリッサとの恋に破れるとインドへ渡り、途中船で会った女と結婚したが、現在はインドに駐在する軍人の妻で子どもの二人ある夫人と恋をしており、妻との離婚問題を解決するために5年ぶりにインドから帰国したのであった。ダロウェイ夫人はピーターの色恋を非難すると、彼は衝動的に涙を流す。ピーターをなぐさめながら、夫人はふと自分が彼と結婚していたら幸福だったろうかと考える。

同じ日、かつては文学青年であり、大戦に出征して神経系統を冒され、復員間際にイタリア娘と結婚したセプティマス・ウォレン・スミスは精神病医サー・ウィリアムの診察を受けに行き、重症と判断され、夕方、自殺してしまう。

夜会は盛大で、首相をはじめ、来賓が続々と到着する。ダロウェイ夫人の古い女友達もやってくる。その中に遅刻して来会した医師夫妻がいた。夫人はこの精神病医から自分の生命が不用になって自殺したという青年のことを聞く。夫人にはセプティマスという青年は未知の男だったが、この自殺をまるでわが身のことのように実感する。ピーターもこの夜会に招かれており、彼は自分の心が興奮するその原因は、夫人が彼の近くにいるせいだと思う。


「ダロウェイ夫人」

著者: ウルフ

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2010/07/12