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Vol.54「ビラヴド」 モリソン

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「アメリカ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


ビラヴド Hyperion(1987)長編小説

トニ・モリソン Toni Morrison1770-) 小説家

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奴隷制の悲劇

1856年に実際に起きた逃亡奴隷マーガレット・ガーナー(Margaret Garner)による子殺しからヒントを得たとされる。どこからともなく現われる20歳のビラヴドは、母に殺された2歳の赤ん坊の甦りであると同時に、奴隷としてアフリカからアメリカに送られる中間航路で死んだ無数の黒人たちをも表象している。

リアリズムの枠を超えたこの設定によりモリソンは、19世紀中葉の黒人奴隷体験記では語られることのなかった心理的側面に焦点を当て、奴隷制の内実に迫ろうとしている。ピューリツァー賞を受賞。

逃亡途中の出産

奴隷制時代のケンタッキー州のスウィート・ホーム農園の新しい農園主「先生」は、残酷な人物であり、奴隷たちは逃亡をくわだてる。実行の直前、妊娠していたセサ(Sethe)は「先生」の甥たちから暴行を受け、それを目撃した夫は気が狂い、逃亡当日も姿を見せない。三人の子供を一足先に地下鉄道組織に託していた19歳のセサは一人で逃亡し、途中で出会った白人少女に助けられてデンヴァー(Denver)を出産する。

わが子を殺す

夫の母ベビー・サッグス(Baby Suggs)もかつてスウィート・ホーム農園の奴隷だったが、息子に自由を買い取ってもらい、今では自由州であるオハイオ州シンシナティで暮らしている。セサは義母の家で三人の子供たちと合流し、自由を満喫するが、盛大すぎるパーティーが共同体の人々の反感を買う。逃亡奴隷を追って「先生」たちが現われると、セサは子供たちを奴隷州に連れ戻される絶望から守ろうとして、2歳の娘の喉を掻き切り、殺してしまう。セサが使い物にならないことを見て取り、「先生」たちは帰っていく。

セサは生まれたばかりのデンヴァーとともにしばらく刑務所に入る。その後も一家の共同体からの孤立は続き、ベビー・ザッグスは寂しく死ぬ。家には殺された赤ん坊の霊がとり憑き、二人の息子は家出してしまう。1873年にセサとデンヴァーのもとに、スウィート・ホーム農園で一緒だったポール(Paul)・Dが現われる。彼が赤ん坊の霊を強引に家から追い払うと、ビラヴドと名乗る20歳の見知らぬ娘が姿を現わし、この家に住み着く。

記憶を語る

やがてデンヴァーもセサも、この娘が殺された赤ん坊の甦りであることに気づく。ビラヴドは過去の物語を聞くことを貪欲に求め、セサは抑圧してきた過去の記憶を苦しみながら語り始める。ビラヴドはポール・Dを誘惑し、一方彼はセサの子殺しを理解することができずに家を出て行く。  

過去の自分の行ないを娘に理解してもらおうとセサは身をすり減らし、仕事もやめてしまい、反対にビラヴドは次第に太り、横暴になっていく。見かねたデンヴァーは、共同体の人々に助けを求める。デンヴァーに仕事をくれた白人が馬車で迎えにくるのを見たセサは、悪夢の再現と勘違いするが、今回は共同体の女たちが団結してセサを抑える。ビラヴドが姿を消し、ポール・Dはセサに自分を愛することの大切さに気づかせる。

【名句】This is not a story to pass on.「これは語り伝えられる物語ではない」


「ビラヴド」

著者: モリソン

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2010/04/16