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Vol.50「怒りのぶどう」 スタインベック

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「アメリカ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


怒りのぶどう The Grapes of Wrath(1939)長編小説

ジョン・スタインベック John Steinbeck19021968) 小説家

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アメリカの叙事詩

タイトルは南北戦争で歌われた「共和国の戦いの歌」(1862)から取られていて、不正に対する神の怒りを象徴的に表わす。本文25章では虐げられた果樹園労働者の怒りを表わしている。出版後すぐにベストセラーとなり、ピューリツァー賞を受賞した。

季節労働者として移動を余儀なくされながらも希望を失わないジョード(Joad)家をはじめとする人々は、過酷な経験を通じて、自己犠牲と連帯の精神に目覚めていく。また全30章のうち奇数章において、物語の背景となる1930年代当時のアメリカの社会・経済状況を語る中間章を挿入することにより、一家族の受難の旅は、より大きな全体の縮図として提示されることになり、一大叙事詩にまで高められている。

ルート66

オクラホマ州一帯は3年間にわたり砂嵐に見舞われて土地が荒廃し、土地を手放さざるを得なくなったオクラホマ農民の群れが、宣伝ビラを頼りに仕事を求めてカリフォルニア州へ移動していく。ジョード家の次男トム(Tom)は、喧嘩で殺人を犯して刑期をつとめていた刑務所から仮出所する。土地を失ったジョード家の3世代12人は、トムが帰郷の途中で出会った元巡回牧師のジム・ケーシー(Jim Casy)を加え、総勢13人で一台の中古トラックに乗りこみ、国道ルート66号線をたどり、西に新天地を目指す。

出発間際になって土地を離れることを渋った祖父は、旅を始めた晩に卒中を起こして死ぬ。故障していたウィルソン(Wilson)家の自動車の修理を手伝い、2家族はともに旅を続ける。カリフォルニアの砂漠直前で長男ノア(Noah)が姿を消す。ウィルソン夫人の病気のため、ジョード家だけでさらに旅を続けるが、砂漠通過中に祖母が死亡する。やがて妊娠中のローズ・オヴ・シャロン(Rose of Sharon)を残して夫も姿を消す。しかし気丈な母親マー(Ma)は、いかなる苦難に遭遇しようとも家族の団結を守り抜こうとする。

自己犠牲と連帯

カリフォルニアに到着しても、果樹や綿花の摘み取り作業は、大量に押し寄せる労働者ゆえに賃金カットが続き、難民たちの暮らしは苦しく、食べるものにも事欠く有り様となる。オクラホマからの難民は「オーキー」と蔑まれ、行く先々で嫌がらせを受ける。トムは労働条件を守ろうとする仲間の起こした暴力沙汰に巻き込まれるが、ジム・ケーシーがトムの罪をきて逮捕される。

国営キャンプを経て、ジョード一家は桃摘みの仕事を求めて移動する。トムは刑務所から出所していたケーシーがストライキを指導しているのに出会うが、ケーシーは警官に殺され、トムはその警官の頭にツルハシを振り下ろす。一家はトムをマットで隠してキャンプ地を引き払う。次に訪れた綿花農園では、一家は有蓋貨車に寝泊まりし、トムは薮に隠れていたが、妹がトムの殺人を漏らしたため、家族のもとを離れ一人逃亡するはめになり、彼はケーシーの遺志をついで労働運動を組織する道に進むことを決意する。

三男は同じ貨車に住む家族の娘と婚約する。大雨による洪水のなか、ローズ・オヴ・シャロンが出産した赤ん坊は死産だった。その直後、避難した納屋にいた餓死しかけている50代の男性に、彼女は赤ん坊に与えるはずだった母乳を与える。

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「怒りのぶどう」

著者: スタインベック

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2010/03/12