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Vol.42「凱旋門」 レマルク

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「ドイツ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


凱旋門 Arc de Triomphe(1946)長篇小説

エーリヒ・マリーア・レマルク Erich Maria Remarque18981970) ドイツの小説家

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あらすじ

第二次世界大戦前夜のパリには、パスポートを持たない各国からの逃亡者が、人目をしのぶ不安な生活を送っていた。40歳をすぎる主人公ラヴィックもそのひとりで、彼はナツィスの強制収容所を脱走して不法入国した敏腕のオーストリア人外科医である。現在は無能な病院長に雇われ、昼はもぐりの手術や娼婦の検診をし、夜は酒場でカルヴァドスをあおる希望のない生活を送っている。このような生活は、いやでも彼をシニカルな刹那主義者にしてしまっていた。彼の唯一の心の支えは、彼を逮捕し、拷問にかけ、愛人を虐殺したゲシュタポ(ナツィス秘密国家警察)のハーケに復讐することである。

ある夜彼は、セーヌ川に身を投げようとした女優ジョアンを救う。二人はやがて愛し合うようになる。が、ラヴィックは心の奥底ではジョアンを愛していながら、いつも冷たく彼女を突き放し、彼女から逃げようとばかりする。ジョアンはそんな彼にますます惹かれて狂おしく彼を愛し、追い求める。ラヴィックは人目をしのぶ境遇と、過去に受けた痛手のためにジョアンのいちずな愛に素直に応えることができないのだ。希望のない、それだけにいっそう激しい恋に二人はさいなまれる。ある日、人助けをしたことから不法入国が露見して、ラヴィックはジョアンに会うひまも、連絡をとるひまもなく国外へ追放されてしまう。

二カ月ぶりにパリに舞い戻ったラヴィックは、ついに仇敵ハーケをつかまえる機会を得る。ラヴィックはハーケをブローニュの森に誘い出して殺害し、復讐をとげる。一方ラヴィックの不在中、孤独に耐えかねて若い俳優と同棲していたジョアンは、その男にラヴィックのことで嫉妬され、ピストルで撃たれる。手術をしたラヴィックは、彼女が助からないことを知り、瀕死の彼女にようやく真実の愛を告白する。折から宣戦布告の報が流れる。その日、ラヴィックのホテルには警察の手がまわり、彼はほかの不法入国者とともにいずこかへ連れ去られる。

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付記

第一次世界大戦に取材した『西部戦線異状なし』で大ベストセラー作家となったレマルクが、亡命先のアメリカで発表して、ふたたび200万部以上のベストセラーとなった作品。恋と復讐に生きる主人公ラヴィックは、女性の心をとらえて離さぬ魅力がある。主人公が愛飲したカルヴァドスも世界的に流行した。「おれは復讐をし、恋をした。これで充分だ。すべてというわけではないけれど、人間としてこれ以上は望めないほどだ」。これは最悪の時代と境遇の中で精いっぱいに生きて、望みを果たし、ついに心の動揺が鎮まったときの主人公ラヴィックの心の底からの感慨である。

ルイス・マイルストン監督、シャルル・ボワイエ/イングリット・バーグマン主演の同名の映画(1948米)も大評判となった。

「凱旋門」

著者: レマルク

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2009/12/11