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Vol.38「ニーベルンゲンの歌」 作者不明

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「ドイツ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


ニーベルンゲンの歌 Nibelungenlied1200?英雄叙事詩

作者不明

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あらすじ

ブルグント国の王グンターは、かねがねアイスランドの女王ブリューンヒルトを妃に迎えたいと念願していた。が、優美な容姿に似合わず、高度の武芸と、男まさりの気性とを兼備している女王を迎えるためには、女王自身の意志にしたがい、女王と三種類の武術試合を行なって、それに勝利を得なければならなかった。王は武術には自信がなかった。そこで一計を案じ、かねて自分のもとに身を寄せていたズィークフリートに助勢を頼んだ。

ズィークフリートは、不死身をもって知られた剛勇無双の男である。彼はネーデルランドの王子であったが、グンター王の妹クリームヒルトへの求婚のため、この国の客人となっていたのである。依頼を受けた彼は、かつてニーベルング族との戦いで獲得した秘宝のひとつ、かぶれば姿が見えなくなるという「かくれ頭巾」を着用してひそかに加勢し、王に勝利をもたらした。かくて王はブリューンヒルトを妃に迎え、ズィークフリートは約束どおり、王妹クリームヒルトと結婚することができた。

ところが、新婚の第一夜、王を拒絶した妃は、王を帯で縛り上げ、壁の釘につるしてしまった。とほうにくれた王は、ふたたびズィークフリートに助勢を頼み、彼に身代わりをつとめてもらって、ようやく妃を従順にさせた。その際ズィークフリートは、妃の指輪と帯を盗み出して、帰宅後妻のクリームヒルトに与えた。

それから10年後のある日、たがいに夫の自慢話をし合っていた王妃同士は、あげくの果てに口論を始めた。このとき、お前の夫は、かつてわが夫の家来だったではないかと言われたクリームヒルトは、逆上のあまり、お前こそわが夫の妾ではないかと言い返し、例の指輪と帯を見せてしまった。満座の中で致命的な侮辱を受けたブリューンヒルトは、こみあげる憤怒の情をおさえ、心中固く復讐を誓った。

ブルグント国の豪傑ハーゲンは、王妃の恨みを晴らそうと決意する。不死身の男ズィークフリートにも、ただ一ヶ所だけ弱点があった。そもそも彼が不死身となった原因は、かつて竜を退治した際に、全身に竜の返り血を浴びたためなのであるが、ただ一ヶ所だけ、菩提樹の葉がはりついていたために、血に染まらなかった箇所があったのである。この秘密を知っていたハーゲンは、狩にこと寄せて彼を招き、ひそかにその箇所にしるしをつけておき、すきを見て投げ槍で刺し殺した。そしてクリームヒルトのもとにおもむき、おびただしい財宝を略奪して、ライン河の底に沈めてしまった。悲嘆にくれたクリームヒルトが、復讐の念に燃えたことは言うまでもない。

ふたたび10数年を経たのち、クリームヒルトは、フン族の王エッツェルから妃にと乞われる。貞淑な彼女はためらうが、心中深く期する決意にかられて、はるばるとエッツェルの城におもむく。そしてさらに10余年後、彼女は王に乞うて、ブルグントの王族を招待させる。招かれた一行は、ドーナウ河にさしかかったとき、水の妖精の予言を聞いて、不吉な予感にとらえられる。

一行が到着し、盛大な酒宴が催される。クリームヒルトは計画を実行にうつす。祝宴の場は一転して修羅場と化し、ブルグントの一行は次々に倒れる。クリームヒルトは自らも亡夫の刀をふるい、仇敵ハーゲンの首をはねる。が、彼女自身も、その残虐さを見かねた客人によって斬殺される。かくして「歓喜はやがて悲愁をもたらす世のさだめ」にしたがい「ニーベルンゲンの災禍」は幕を閉じる。

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解説

中世ドイツ文学の民族的英雄叙事詩のうちで、質量ともに最高の作品である。2行ずつ脚韻をふんだ4行一節の、ニーベルンゲン詩節と呼ばれる韻文形式で書かれ、全体は、239章、2379詩節から成る。現存する写本は、30余種あるが、完全なものは10種である。

この作品の歴史的背景は、56世紀の民族移動時代である。ズィークフリートを主人公とする前半の物語は、婚姻によって、メロヴィング王朝がブルグント王家に統合された事件にまつわる伝説にもとづいており、後半のブルグント族滅亡の物語は、ブルグント族とフン族との戦いにおけるフン族の勝利、ブルグントの女王とフン族の王との婚礼の夜、フン族の王が死んだこと、さらに、フランケンによるブルグントの殲滅などの史実に基づいている。

元来は独立していたズィークフリート伝説の歌謡と、ブルグント滅亡の歌謡とを、夫婦愛と配偶者の仇討ちという主要テーマによって、内面的に関連づけるとともに、形式的にも宮廷叙事詩にふさわしいものとしてこの叙事詩を完成したのは、氏名不詳の一詩人である。彼はパッサウの司教か、ヴィーンの宮廷に仕える騎士詩人であったと推測されている。

この叙事詩を素材として、多くの作品が書かれたが、中でも、ヘッベルの戯曲『ニーベルンゲン』3部作と、ヴァーグナーの楽劇『ニーベルンゲンの指輪』とが有名である。


「ニーベルンゲンの歌」

著者: 不明

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2009/10/09