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Vol.37「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」 ディック

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「アメリカ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


アンドロイドは電気羊の夢を見るか? Do Androids Dream of Electric Sheep?1968長編小説

フィリップ・キンドレッド・ディック Philip Kindred Dick19281982 ) SF作家


人間とは何か

最終戦争後の放射能灰を避けて、多数が火星に移住してしまった後の地球。召使として携行されたアンドロイドのうち、地球へ潜入するものがいる。共感能力の有無を検査して彼らを処理するハンターと放射能灰に心身を侵された模造動物修理店の男の物語とを対位法的に描いた作品。

自分は偽りの記憶を移植されたアンドロイドかもしれない、という疑いをハンターは抱くが、疑似記憶の主題は偽物・疑似現実の主題と絡み合い、この作家の生涯にわたるテーマを構成している。人間とは何かという問いに対し、他者に対し共感できる存在、という答えを提示。リドリー・スコット監督の映画 Blade Runner1982)の原作。

共感ボックス

絶滅に瀕した動物を飼うことが地位の証であり、それが叶わぬ者たちは模造動物を本物と偽って飼育するような侘しい地球。人々は共感ボックスの取っ手を握り、投石を受けながら丘を登る映像の中の「教祖」マーサー(Mercer)と融合するか、アンドロイドのコメディアン、バスター(Buster)のお喋りを視聴するかして、気を紛らせている。

アンドロイド疑惑の検証

ある日、警察署所属のハンター、リック(Rick)は最新型アンドロイド〈ネクサス6型〉6名を処理せよという命を受ける。最初の相手は味方と偽って近づいてきた。二人目は美しく情感豊かなオペラ歌手ルーバ(Luba)。彼女の計略にかかり、6型たちの運営する偽りの司法本部へ連行される。三人目はそこの警視だった。絶体絶命のところをハンターのフィル(Phil)に救われるが、フィル本人も6型であると死の直前、警視はほのめかす。

脱出後、リックは彼と行動を共にするものの、ムンク展において「思春期」を見つめるルーバに共感する一方、彼女を処理したフィルに憎悪を覚える。そこで彼に対するアンドロイド疑惑を検証するが、残念ながら人間と判明。逆に彼から、ルーバに対する共感は肉欲が原因と指摘される。

感情移入の問題

精神的な疲労から高価な山羊を購入した上、製造元所有の6型であるレイチェル(Rachael)を抱くリック。妻には感じなかった愛情を覚えたのも束の間、衝撃の告白を聞かされる。曰く、狩る意欲を奪う目的でフィルを含むハンター達と寝てきた、と。

一方、レイチェルと完全同形の6型プリス(Pris)を含む残る三人は放射能灰に生殖能力・知力ともに侵されたイジドア(Isidore)のもとに身を寄せていた。プリスに恋心を抱き三人を大切に思う彼に対し、感情移入能力を欠いた6型たち。教祖マーサーは虚像に過ぎないとバスターが暴露するのをテレビに見ながらクモの足を切り落とす。耐え難くなりイジドアは部屋を後にするが、リックが彼らを処理したことに対し、悲しみと憤りを隠さない。

聖なる電気蛙

帰宅したリックはレイチェルが仇討に山羊を殺した事実を知る。自分自身に対する違和感が昂じた彼は、自殺しようと砂漠に飛ぶ。登攀する彼はマーサーそのものだった。ふと聖なるヒキガエルを発見。帰宅して妻に電気蛙と教わるまで彼は希望に包まれていた。

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「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」

著者: ディック

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2009/09/04