Vol.34「青い花」 ノヴァーリス
下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「ドイツ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。 |
青い花 Heinrich von Ofterdingen(1802)小説
ノヴァーリス Novalis(1772-1801) ドイツの詩人・小説家
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あらすじ
ハインリヒは、ある夜、自分の家に泊まった旅人から不思議な「青い花」の話を聞き、あこがれを抱く。その夜、夢の中に青い花が現われ、その花がいつのまにか優しい乙女の姿に変わる。
ハインリヒは、母とともに祖父のもとを訪れるために、アウクスブルクへ旅立つ。道々、同行の人から、物語や詩の話を聞き、ハインリヒにも詩心が目ざめる。一行は十字軍の騎士の居城で、東洋から捕虜として連れて来られた美少女トゥリーマの話を聞き、戦争の悲惨さやむなしさを知ると同時に、未知の世界、東洋に心を惹かれる。
また、洞窟に住む隠者ホーエンツォレルン伯を訪ねたハインリヒは、自分の過去・現在・未来の姿について書かれている書物を見せてもらい、驚く。
目的地のアウクスブルクに着いたハインリヒは、祖父の家で、老詩人のクリングゾールと、その娘の「昇る太陽に傾く百合」のようなマティルデに会う。彼女の顔は、かつて夢に見た、青い花の乙女とそっくりであった。ハインリヒはマティルデに愛を告白し、二人は婚約する。だが、その夜、彼は不吉な夢を見る。夢の中で、マティルデは舟をこいでいる。彼女は突然水に落ち、溺れそうになる。マティルデを救おうとした彼も溺れてしまうのである。ところが、不幸にしてこの夢は現実となって、マティルデは川で溺死してしまう。
愛する人を失ったハインリヒは、巡礼者となってさまよい歩く。ある日、山深い森の中で悲しみに沈んでいると、ふとマティルデの声が聞こえた。その声は、ハインリヒに琴を弾くように勧める。琴を弾けば、ひとりの少女が姿を現わすというのである。そこで琴を弾くと、少女ツァーネが現われる。ツァーネに誘われて森の中の彼女の家に行った彼は、そこで死者たちの世界を訪れる。
やがて、死の国を出て、現実の世界にもどったハインリヒは、イタリアに旅行したり、戦乱に身を投じたり、ギリシアを訪ねたり、あるいは東洋に渡って詩と神秘とを学んだりする。こうして、さまざまな経験を積んだのち、ドイツに帰って華やかな宮廷生活に入った彼は、皇帝の信任も厚く、詩人として輝かしい栄誉を受ける。
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付記
ドイツロマン主義の典型的な作品で、「青い花」はロマン主義を象徴する言葉になっている。ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスター』に対抗して書かれたもので、人間の発展をロマン主義的にとらえ、「詩の賛美」を基調とした童話風の作品である。
第1部「期待」はマティルデと婚約したところで終わっているが、第2部「実現」は、作者が死んだため未完に終わった。
「青い花」
著者: ノヴァーリス