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Vol.31「フィガロの結婚」 ボーマルシェ

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「フランス文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


フィガロの結婚 le Mariage de Figaro1784喜劇5幕散文

ピエール・カロン・ド・ボーマルシェ Pierre Caron de Beaumarchais17321779) 劇作家

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あらすじ

フィガロはアルマヴィヴァ伯爵の従僕となっている。今日は伯爵夫人の侍女で美しいシュザンヌとの結婚式の準備に忙しい。だが、シュザンヌをものにしようとしている伯爵は領主の初夜権という古い封建時代の特権を利用しようとしている。老女マルスリーヌは、金を返せさなければ結婚するというフィガロが書いた借金の証文の実行を迫り、シュザンヌとの結婚に異議を申し立てる。伯爵が大変なさわぎをして結婚した夫人ロジーヌをさしおいてまたも浮気狂いをしているので、夫人の気分はおだやかでなく、フィガロに相談してにせ手紙を送らせ、伯爵の嫉妬をそそる。

恐るべき才略の持主フィガロの反撃は始まるし、シュザンヌは一向に思い通りにならないし、伯爵はふたりの結婚をじゃまする方針に変え、マルスリーヌの訴えを取り上げて、マルスリーヌの勝ちとする。驚いた伯爵夫人はシュザンヌに持参金を与え、それで借金を返させようとする。ところが腕についているしるしから、フィガロは実はマルスリーヌがその昔医師バルトロとの間に生んだ子なのがわかり、借金は帳消し、シュザンヌとの結婚には賛成ということになる。

ここまで来ても伯爵がまだシュザンヌに気があるのを見て、夫人はシュザンヌと共謀して、結婚式場で伯爵に手紙を渡させ、夜、庭で待ち合わせる。この計画をわきから知らされたフィガロは、シュザンヌが本気なのだと誤解、怒り悲しんで、あいびきの場所に先回りして待ち伏せる。ここで有名な長い、長い独白がある。

《……いいや伯爵様、あの子を手に入れさせはしませんよ。えらい殿様だからというので、えらく才があると思っているんですね!……貴族の生まれ、財産、位階、地位、そういうものみな、これほど心をおごらせるのだ!これほど多くの利益のために何をしたっていうんです? 生まれるという手間をかけた、ただそれだけなんだ。おまけにかなり平凡な人物だ!ところがこのおれときたら、畜生め!名もしれぬ群衆の中にまぎれ込んで、ただ生きて行くだけにも、百年このかたスペイン全土を治めるのに使ったのよりずっと多く、知恵を絞り、かけひきをやらなきゃならなかったんだ》。

暗闇の中での二重の人違いのさわぎのあと、フィガロの誤解は解け、伯爵はシュザンヌと思い込んで自分の妻をものにしただけで終わり、恥をかく

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解説

『狂気の一日』と別題のあるこの作品は、1780年にすでに書かれ、上演が準備されたが、禁止を受けていた。それだけに前評判が高く、初日には負傷者が出るほどの入りだった。

生まれの特権を正当化するのは徳と才であるという考えは中世の『バラ物語』からあるが、下僕の口からの堂々たる批判は新しく、フィガロを革命前夜の市民階級のチャンピオンとしたが、貴族たちも笑って見ていた。

市民である下僕が道徳的にも才能や意志の強固さにおいても、主人である貴族よりまさっているという状況は、貴族の観客からすればアルマヴィヴァ伯爵の家庭の事情にすぎなかった。真面目くさった市民劇を脱却することで、かえって市民階級擁護の効果を生んだ。


「フィガロの結婚」

著者: ボーマルシェ

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2009/07/15