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Vol.29「グレート・ギャッツビー」 フィッツジェラルド

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「アメリカ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


グレート・ギャッツビー The Great Gatsby1797長編小説

F・スコット・フィッツジェラルド Francis Scott[Key]Fitzgerald18961940) 小説家

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推理小説的展開

 若い証券マン、ニック・キャラウェイ(Nick Carraway)はウェスト・エッグに家を借りて住み着き、ウォール街へ列車通勤を始める。

 隣の大邸宅では夜な夜な豪勢なガーデンパーティーが開かれている。館の主についてさまざまな噂が彼の耳にも入ってくるが、やがてある晩、対岸のイースト・エッグの浜辺に輝いている緑の灯に向かって身をふるわせながら両手をさしのべている男の姿に出会う。これが噂の主ジェイ・ギャッツビー(Jay Gatsby)だった。

 ニックは女友だちジョーダン・ベイカー(Jordan Baker)の助けも借りてギャッツビーの謎を解いてゆく。

 緑の灯のあるところには富豪のトム・ビュカナン(Tom Buchanan)と結婚したデイジーが住んでいるのだが、ギャッツビーはかつての恋人だったデイジーとの再会をニックにとりなして欲しいと懇願する。

成功の夢 変身願望

 すべての始まりはノースダコタの片田舎の月明かりのなかで目映いばかりの空想に耽っていた少年ジェイムズ・ギャッツ(James Gatz)であった。故郷を離れてスペリオル湖のほとりをうろついているとき錨を下ろした富豪ダン・コーディー(Dan Cody)のヨットを見た瞬間、彼は生まれ変わり、ジェイ・ギャッツビーに変身したのだ。この新しい名前の人物は「彼自身のプラトン的な観念から生まれてきたのだ。彼は〈神の子〉なのだ」。

 彼は兵役でルヴィルの街に駐屯中に裕福な家庭の娘デイジー・フェイ(Daisy Fay)と知りあい、恋仲になる。ところがヨーロッパに駐屯していた5年の間に彼女は人妻になっていた。

 彼は恋人を取り戻したい一心で、禁酒法下の酒類密売で巨万の富を稼ぐ。ウェスト・エッグの館に招かれてきたデイジーは超高価なワイシャツの山を見せられて感極まってすすり泣き始める。

 ギャッツビーの願いはいったん叶えられるのだが、彼女の夫トムが彼の仮面を引き剥がしたときに夢は破れる。

 そしてデイジーの運転する車がトムの愛人マートル・ウィルソン(Myrtle Wilson)を轢き殺したのを皮切りに物語は破局に向かって急展開する。トムの虚言に引っかかったマートルの夫ジョージがギャッツビーを射殺して自殺する。トムとデイジーはいかなる傷も、罰も受けることなくニューヨークを去る。

一人称の語り手の役割

 作品は、軽々しく人を批判してはならないという父の戒めを忠実に守ったために、やたらに打ち明け話を聞かされるようになったというニックの話から始まる。

 詩人キーツ(John Keats)の「消極能力」(negativ capability)を思わせるこの告白によって、ニックは自分の語り手としての正当性を主張しているのである。すべては彼の語りのなかにあるのであり、彼の想像力と言葉の魔術によって酒類密売人(bootlegger)の夢はアメリカの夢に昇華される。

【名句】I became aware of the old island here that flowered once for Dutch sailors’ eyes a fresh, green breast of the new world. 「かつてオランダの船乗りたちの眼に花のごとく映ったこの島の昔の姿——新世界のみずみずしい緑の胸——が、ぼくの眼にも浮かんできた」


「グレート・ギャッツビー」

著者: フィッツジェラルド

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2009/07/02