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Vol.26「変身」 カフカ

Photo 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「ドイツ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


変身 Die Verwandlung1916短篇小説

フランツ・カフカ Franz Kafka18831924) ユダヤ系ドイツの小説家

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あらすじ

ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からさめると、自分が一匹の巨大な毒虫に変身しているのを見いだす。身体は固い甲冑のような外皮に包まれ、胴体からは細い足が何本も生えている。夢ではないかと思うが、まぎれもない現実なのである。窓の外に目をやると、雨の降る陰鬱な天候だ。

もう少し眠ろうと思って身体の向きを変えようとするが、何度試みても身体がゆれるだけで、そのたびにもとの仰向けの姿勢にもどってしまう。眠るのをあきらめた彼は、仕事のことを考える。

グレゴールは、布地のセールスマンとしてあわただしい毎日をすごしてきた。彼は一家を養い、両親の借金を返すために休む間もなく働いてきた。すっかり神経をすりへらした彼は、苦労の多い現在の職をうとましく思い、将来に希望をかける。いろいろな思いにふけっているうちに出勤の時間が迫ってきて、母が起こしにくる。彼は起き上って仕度をしようとするが、身体が思うように動かず、大変な苦労をする。

彼がなかなか起きてこないので、両親や妹は、病気ではないかと思う。そのうちに店の支配人までもグレゴールを呼びにくる。

室内に入った者たちは、そこに巨大な毒虫を発見して驚愕する。支配人はあとずさりし、母は声もなくすわりこみ、父は泣きはじめる。

やがてグレゴールは一室に閉じ込められる。妹が食事の世話をしてくれたが、あれほど可愛がってきた妹も、今では逃げ出すことしか考えていないようである。

母に会いたいというグレゴールの願いはかなえられる。が、グレゴールを見るやいなや、母はソファーに倒れてしまう。怒った父親が果物皿のリンゴを投げつけると、その一つがグレゴールの背中にのめり込んで、彼は重傷を負う。

唯一の働き手を失った一家は、大きな打撃を受ける。父は働きに出、母は内職をし、音楽学校に入りたがっていた妹は、売子になる。

変身して以来グレゴールは数々のつらい体験をするが、家族の者も彼のために不快な思いをしなければならなかった。彼らは、今ではグレゴールがいなくなることだけを願っている。怪我の悪化と、こうした家族の敵視の中で、グレゴールは、彼自身この世から姿を消さなければならないと覚悟する。

変身後数カ月を経たある夜明け方、一室に閉じ込められていた大きな褐色の虫けらは、虫けらのまま死ぬ。朝になって、その干からびた死骸を見いだした家族の者たちは、ほっとする。父親は、神に感謝して十字を切り、女たちもそれにならう。そして親子そろって、早春の日ざしを浴びながら、散歩に出かける。両親は、とみに美しくふくよかになった娘をながめて、婿探しのことなどを考えている。

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「変身」

著者:カフカ

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2009/06/08