Vol.25「武器よさらば」 ヘミングウェイ
下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在 入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「アメリカ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。 |
武器よさらば A Farewell to Arms(1929) 長編小説
アーネスト・ミラー・ヘミングウェイ Ernest Miller Hemingway(1899-1961)小説家
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構成 商業的にも作品の評価としてもヘミングウェイの地位を不動のものにした長編小説である。この作品は、現代版『ロミオとジュリエット』だとよく評される。悲劇のラブロマンスであるわけだが、ひとつにはその構成において古典劇の5幕という形式が忠実にまもられており、ヘミングウェイは5部構成で物語を展開させている。 第1部から第5部までの季節はおおむね夏夏秋秋冬となっており、春の描写が少ないところにヘミングウェイの人生観があらわれる。また、悲劇を暗示する場面では必ず雨が降り、天候を作品のムードに効果的に取り込むことに成功している。
始まり 第1次世界大戦にイタリア軍傷病兵運搬隊の一人として参加したアメリカ人中尉フレデリック・ヘンリー(Frederic Henry)は、この戦争で婚約者を失ったイギリス人篤志看護婦キャサリン・バークレー(Catherine Barkley)とイタリア北部の戦場で出会う。 二人の出会いはまったく愛のないところから始まった。フレデリックは、将校用の慰安所へ行くよりはキャサリンと恋愛ゲームをやるほうがましだと考え、始めは愛するつもりなどなかった。そしてキャサリンもそれは承知であった。
オーストリア軍の迫撃砲で足を負傷したフレデリックは、野戦病院からミラノにあるアメリカ軍の病院に移され、そこにはキャサリンも配属されることになっていた。病院で再会すると、フレデリックはキャサリンを愛してしまう。足の手術後、キャサリンは夜勤を買って出て二人は毎晩のように会った。そして足の傷が癒え休暇を取った後に前線へ戻るようにとの命令書を受け取った日に、フレデリックはキャサリンから妊娠していることを告げられる。
逃走 前線復帰後しばらくするとイタリア軍は退却を余儀なくされる。フレデリックも雨のなかを逃走していると憲兵の尋問にあう。言葉に訛りがあることからスパイ容疑をかけられるのは明らかで銃殺は免れない。しかし隙を見て傍らにある川に飛び込みなんとか逃れ、キャサリンを求め貨車に乗ってミラノまで来る。しかしキャサリンはスイスとの国境に近いストレーザに移っていた。 脱走兵となったフレデリックはストレーザに向かいキャサリンを見つけ出し、二人は湖畔のホテルに滞在する。再会の喜びもつかの間、ホテルのバーテンから翌朝逮捕されそうだとの情報を得て、二人は嵐で波の高い湖をボートで国境を越え、スイスに入る。
スイスでは兵隊に尋問され税関で取調べを受けるものの、仮査証をもらうことができ、モントルーへ向かう。二人は山腹にある老夫婦の家の二階に下宿し幸福な冬を過ごした。 出産が1カ月後にせまった3月、二人は病院のあるローザンヌに移った。ある朝3時ごろキャサリンは陣痛を訴え、入院する。お産は長びき、帝王切開ののち生まれた赤ん坊は、へその緒が首に巻きつき死産となった。そしてキャサリンも出血多量で死ぬ。外には雨が降っていた。
【名句】I’m not afraid. I just hate it. 「死ぬのは怖くないの。ただいやなだけ」
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著者:ヘミングウェイ