Vol.21 「エデンの東」 スタインベック
下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「アメリカ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。 |
エデンの東 East of Eden(1952)長編小説
ジョン・スタインベック Jerome David Salinger(1902-68)小説家
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カインの物語
人間がこの世で生きることの意味を問うという壮大な構想のもとに5年をかけて執筆され、作者が自らの創作の集大成と位置づける4部構成の超大作。南北戦争から第1次大戦にかけて二家族の三世代を辿り、ハミルトン(Hamilton)家を通してサリーナスにおける作者自らの母方の家系の歴史を語ると同時に、トラスク(Trask)家を通して人間の原罪の問題と取り組んだ。
タイトルは、旧約聖書の創世記で語られる、アダム(Adam)の息子であるカイン(Cain)が弟のアベル(Abel)を殺し、神により印をつけられて追放された後に住みついた土地を指し、小説全体はこのカインの物語の新しい解釈となっている。
カリフォルニア州北部サリーナス盆地に移住して一家を築くサミュエル・ハミルトン(Samuel)は、作中にしばしば顔を出す一人称の語り手の祖父にあたる。空想的で発明の才に恵まれた北アイルランド生まれの彼は、妻との間に4男5女の子供に恵まれる。性格の異なる子供たちは互いに頼りあい、老いた両親を農場から引き取って順番に面倒をみようとする。サミュエルは井戸掘り仕事でトラスク家と知りあい、農場を離れるまで深い交流を持つ。
兄弟、そして双子
コネティカット州の農場で育ったアダム・トラスクには性格が正反対の腹違いの弟チャールズ(Charles)がいる。父の遺産の半分を相続したアダムは、記憶喪失を装う美女キャシー(Cathy)を妻として伴い、1900年にサリーナス盆地にやってくる。
キャシーは悪の化身のような女であり、多くの人を破滅させ、両親をも事故を装って殺した過去をもつ。チャールズの子を妊娠していたキャシーは、堕胎に失敗して双子を生むと、アダムの肩を銃で撃って家を出て行く。
彼女はサリーナスの売春宿の女性経営者を密かに毒殺し、後釜に座って悪徳の限りを尽くす。妻に去られたアダムはもぬけの殻になり、召使でインテリの中国人男性リー(Lee)が二人の子供の世話を焼く。リーが心から尊敬するサミュエルがアダムを立ち直らせ、三人で1年以上も名前のなかった双子に聖書からカレブ(Caleb)とアロン(Aaron)と名づける。
「ティムシェル」
双子の性格は正反対で、カレブは悪に強く惹かれるのに対し、アロンは天使のように翳りがなく誰からも好かれる。カレブはそんなアロンに嫉妬し続ける。
カレブは戦争をあてこんで投機したインゲン豆で巨額の利益をあげ、その儲けを父に贈ろうとするが、地元の徴兵委員として戦争に心を痛めている父から受け取りを拒絶される。怒りに駆られたカレブはアロンに、死んだはずの母が売春婦として生きていることを教え、キャシーのもとに連れていく。アロンはこの衝撃を乗り越えられず、軍隊に志願する。
キャシーはアロンに遺産を残して自殺する。やがてアロンの戦死の知らせを受け、父は衝撃から卒中で倒れる。リーの勧めで、カレブはアロンに残酷な仕打ちをしたことを父に告白し、許しを求める。重度の麻痺状態にありながら、父はヘブライ語で「ティムシェル」(汝——することあるべし)と呟き、人間には善と悪とを自ら選択する権利、選ぶ責任が与えられていることを伝え、カレブを許す。