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Vol.17「ガープの世界」 アーヴィング

100_2 下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「アメリカ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。


ガープの世界 The World According to Garp1978) 長編小説

ジョン・アーヴィングJohn Irving1942-)小説家

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鮮やかなプロット展開

 33歳の若さで悲劇的な死を遂げる作家TS・ガープ(T.S.Garp)の波乱に富む生涯を描いたアーヴィング4番目の小説。男女間の戦争とも言える極端な対立をはじめ、様々な性の問題と直面し、また、暴力、殺人、悲惨な事故を経験しながら、ガープは作家、夫、父親として成長し、短い人生を力強く駆け抜けていく。

教養小説、コメディー、ソープオペラ(メロドラマ)、メタフィクション等、多様な物語の要素を取り込みながら、同時代の形式偏重の小説が失ってしまったプロット展開の面白さによって、多くの読者を魅了し続けている。

傷ついた女たち

 男の欲望、暴力に嫌悪感を抱く看護師のジェニー・フィールズ(Jenny Fields)は、脳損傷のため赤子に退行してしまったガープ三等曹長(Technical Sergeant Garp)と性行為を行ない、息子ガープを産む。

ジェニーはガープを連れて、ニューハンプシャーにある寄宿制男子校で住み込みの看護師として働くようになる。その男子校に入学するとガープはレスリング部に入り、コーチの娘ヘレン・ホーム(Helen Holm)と出合う。「本物の作家と結婚したい」というヘレンの言葉を聞き作家になることを決意。死をテーマにしたペーソス溢れる短編小説を発表したのちヘレンと結婚する。

一方、ジェニーは男を必要としない人生を綴った自伝を発表する。その自伝が大評判になり、女性解放運動の教祖に祭り上げられ、傷ついた女たちを支援するようになる。彼女の周りには、男の暴力に抗議するため、強姦され舌を切られた少女に倣い、自らの舌を切断した過激な女たちの集団や、女性に性転換した元フットボール選手等、奇抜な女たちが集まって来る。しかし、ガープはフェミニストの教祖という母の役割を受け入れられず、一部の女たちと軋轢を引き起こす。

成功そして非業の死

 ガープは大学教師の妻ヘレンに代わり、家事、育児をこなす専業主夫の役割を引き受け、平穏な日々を過ごすのだが、そこに悲劇が起こる。妻ヘレンが浮気相手の車の中で情事の清算をしているところに、二人の子供を乗せたガープの車が突っ込んでしまったのだ。ヘレンは口に含んでいた愛人の性器を噛み切り、長男は右眼球を失い、次男は死亡してしまう。

この惨劇を乗り越えるべくガープは創作に打ち込み、強姦、暴力をテーマにした小説を発表すると、それがベストセラーとなり、作家としての地位と名声を得る。幸福も束の間、母ジェニーが女性の自立を憎む男に撃ち殺されてしまう。一方、ガープは過激な女たちとの対立を深め、その一人の凶弾によって命を落とす。犯人はガープの初体験の相手の妹で、ガープとのセックスが姉を死に追いやったと盲信していたのである。エピローグでは、残された家族や友人達が、ガープの思い出とともに幸福に暮らしていく姿が描かれている。

【名句】But in the world according to Garp, We are all terminal cases.

    「しかし、ガープの世界では、我々はみな末期の患者なのだ」


「ガープの世界」
著者:アーヴィング

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2009/03/23