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Vol.6 「守銭奴」 モリエール

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下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「フランス文学案内」(朝日出版社)より引用しています。

 

 


守銭奴 l'Avare1668) 舞踊喜劇5幕散文

モリエール Molière16221673) 劇作家・俳優

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あらすじ

金持ちのアルパゴンは金銭財宝そのものを偏執的に愛するけちである。息子のクレアントは、貧しい美少女マリヤーヌと、娘のエリーズはヴァレールとひそかに愛し合っているが、親のけちのせいで動きがとれない。ところが、アルパゴンは恋におち、相手はなんとマリヤーヌだ。持参金なしでいいという惚れ込みかたで、そのかわり息子には金持ちの後家を、娘には金満家の老人アンセルムをあてがうという。ふたりはあわて、執事になって入りこんだヴァレールがアンセルムとマリヤーヌの結婚に賛成するふりをしながら考え直させようとする。だが、アルパゴンにはアンセルムが持参金なしでいいというのが魅力なのだ。“持参金なしだぞ”の有名なくりかえしが笑いをさそう(第1幕)。

クレアントは仲介人シモンを通じて名を明かさない高利貸から結婚資金を借りようとするが、その暴利に怒る。ところがその高利貸とは父で、父の方も大金を借りようとするドラ息子が自分のせがれなのを知って怒る。世話やきの老婆フロジーヌは、アルパゴンとマリヤーヌを見合いさせると称して、アルパゴンから金を絞り、死ぬほどの思いをさせる(第2幕)。

見合いのパーティはおよそけちに準備され、マリヤーヌはフロジーヌになだめすかされてやって来、クレアントを見て驚く。クレアントは父の気持ちを代弁すると称して自分の愛を語り、父の宝石つき指環を与えてしまう。アルパゴンは指環を惜しんで嘆く(第3幕)。

さすがに、アルパゴンは息子とマリヤーヌの仲を疑い、問いつめて白状させ、大げんかとなる。クレアントの下男がアルパゴンの宝の入った手箱を見つけ出したと報告、クレアントはそれを持って逃げる。盗難を知ったアルパゴンは、恋人か妻をさらわれたようなさわぎで悲しむ。喜劇性を越えた迫力のある場面で、彼のけちの行き過ぎが家庭の幸福を破壊することを笑うのが本筋だが、対抗して子供たちがいつも策略を用いることの行き過ぎも残酷に感じられ、批判の対象になっているのがわかる(第4幕)。

にせ執事ヴァレールにしかられたのを恨んだ馬丁兼料理人のジャックが犯人はヴァレールだと告げ口する。アルパゴンに雷を落とされたヴァレールは、エリーズとひそかに愛を語ったことだと思い違いをして、告白するが、アルパゴンはその話を手箱のことだと思い込み、話はひどく混線する。そこへアンセルムがやって来、ヴァレールは貴族である身分を明かす。すると、ヴァレールとマリヤーヌが、難破して死んだと思われていたアンセルムの子供なのがわかる。クレアントが戻り、手箱を返す代わりにマリヤーヌとの結婚の許可を乞う。手箱が返りさえすればしあわせなアルパゴンは2組の若者たちの結婚を許す(第5幕)。

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解説

今日でも最も上演回数の多い作品のひとつ。発表当時は5幕の大作が韻文でなく散文なのと、同じ散文5幕でも『ドン・ジュアン』のような機械仕掛けや派手な立ち回りがなく、のちにゲーテが感激した悲劇性を含む暗さのせいで、不入りだった。“持参金なしだぞ”などは、ローマのプラウトゥスの『鍋』からの借用だが、効果はずっとすぐれている。現実観察でなく執念そのものを描く。


守銭奴
著者:モリエール

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2008/10/23