Vol.3 「時計じかけのオレンジ」 バージェス

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下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「イギリス文学案内」(朝日出版社)より引用しています。 |
時計じかけのオレンジ A Clockwork Orange(1962)未来小説
アンソニー・バージェス Anthony Burgess(1917-1993) 小説家
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解説
全体主義支配下の犯罪が蔓延する退廃的な未来社会を渡ってゆく少年アレックスが自らの物語を語る悪漢小説。暴力によって人の心が蝕まれ、愛が蹂躙され、芸術も、信仰も、本来の意味を顧みられない恐怖社会を諷刺する作品の背後には、オーウェルの「1984」に描かれる思想統制で国民の思考を無力化して従順な奴隷として管理する全体主義体制の存在が暗示される。悪人アレックスの復活は、不寛容と無関心を強要し、人間のエゴイズムを助長する全体主義国家の末路を象徴する結末であろう。
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梗概
15歳の少年アレックスは、欲望の赴くままに、夜ごと不良仲間とつるんで乱暴と盗みを愉しむ札付きの非行少年。麻薬の入ったミルクを飲み、車で無造作に人を跳ね飛ばし、無抵抗の老人に危害を加え、言葉巧みに騙して民家に押し入り、破壊行為に没頭し、婦女暴行を繰り返す。アレックスは、ベートーヴェンの音楽を聴きながら無軌道な暴力の空想に耽り、恐怖で弱者を戦慄させ支配者を気取る悪人である。
ある夜、アレックスは、老女の家に不法侵入して殺人を犯し、懲役14年の実刑判決を受ける。その後、アレックスは2年に及ぶ獄中生活で、さらに狡猾な悪人の処世術を身につけ、改心を装い、教誨師の差し出す聖書に描かれた暴力に慰めを求める。しかし、ある夜、同じ牢の囚人を殺してしまうと、深刻な犯罪対策の一環として国家が密かに着手していた悪人矯正計画の実験台の第一号になる。
アレックスは自由の身に憧れて被験者になることを安易に承諾し、刑務所に隣接する秘密の施設に移り、2週間余り毎日映写室へ車椅子で運ばれては長時間に及ぶ残虐行為の記録映画を見続けることを強制され、それと並行してルドビコ剤という精神矯正薬を密かに投与される。アレックスはこれにより暴力行為を見たり、想像するだけでも肉体的苦痛を覚えるようになる。
アレックスの矯正の成果は多くの政府関係者の前で実証され、マスコミを通じて国に大々的に報じられる。
釈放されたアレックスは、ルドビコ剤の鞭に脅えながら暴力を避ける。出所後、実家に帰宅したアレックスは、下宿人に自分の部屋を占領され、両親からも無視されながら、家を出る。
その後、公立図書館でかつて暴行を加えた老人から暴行を受け、駆けつけた警官はかつて顔馴染みだった元不良少年たちで、被害者のアレックスを救助するどころか加害者として逮捕し、人気の無い郊外へと連れ出し簡易刑罰と称して暴行を加える。
傷ついたアレックスは救いを求めて、自分の暴虐の犠牲となった作家アレグザンダー家を偶然訪れる。アレックスはアレグザンダーの携わる反体制運動に協力を迫られ、ある日、ルドビコ剤の作用に耐え切れず、発作的に飛び降り自殺を図る。やがて病院で意識を取り戻したアレックスは、国家によって再び元の状態に戻されたことを知る。こうして悪人アレックスは完全に復活する。



