Vol.4 「ライ麦畑でつかまえて」 サリンジャー
下記の作品案内は、代表的作家の生涯・主要作品が要領よく解説され、さらに充実の翻訳文献を付した、現在入手しうる最良の文学案内として好評を得ている世界文学シリーズからの一冊、「アメリカ文学案内」(朝日出版社)より引用しています。 |
ライ麦畑でつかまえて The Catcher in the Rye(1951)長編小説
ジェローム・デイヴィッド・サリンジャー Jerome David Salinger(1919-2010)小説家
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《青春小説の古典》
サリンジャーの名を世に知らしめたベストセラーであり、出版から半世紀以上経った今もなお多くの読者を惹きつけてやまない永遠の青春小説。ホールデン・コールフィールド(Holden Caulfield)の3日間にわたる放浪が、ホールデン本人の回想を通して語られる形式で、文明社会や世俗的な人々の「インチキ」(phony)に対する強烈な嫌悪と怒りが、当時の若者の言葉を用いて生き生きと描かれている。
《学校との訣別》
ある冬の日、16歳のホールデン・コールフィールドはペンシー寄宿学校を去ろうとしていた。著しい成績不良のため退学処分を受けたのだ。その夕方、歴史の先生であるスペンサー(Spencer)に別れの挨拶をしに行くが、うんざりするような説教を聞かされ気分がすっかりふさいでしまう。やがて寄宿舎に戻るが、そこでも隣室のアクリー(Ackley)の卑屈な言動やルームメイトであるストラドレイター(Stradlater)の傲慢なナルシシズムに気が滅入ってしまい、さっさと荷造りをしてニューヨークへ帰る決心をする。しかし、両親に対面する勇気が無く、あてもなくニューヨークの街を放浪することになる。
《夢と現実の狭間で》
ニューヨークに着いた最初の夜、ホールデンはホテルのエレベーターボーイに娼婦を紹介される。ところが、騙されて金を巻き上げられた挙句に暴力を振るわれる。翌日ガールフレンドのサリー(Sally)とデートをするが、学校やニューヨークでの生活に対する激しい不満を彼女にぶつけたために嫌われてしまう。傷ついたホールデンはこっそり家に帰り、唯一の心の慰めである妹のフィービー(Phoebe)に会う。兄の身の上を心配するフィービーに将来なりたいものはあるのかと詰問され、ホールデンはライ麦畑で遊んでいる子供たちが崖から落ちないように捕まえる、「ライ麦のつかまえ役」になりたいのだと話す。
《絶望、祈り、そして希望》
その後、信頼する恩師アントリーニ(Antolini)の家を訪問するが、学校教育が必要だと諭された後、先生のホモセクシャルまがいの行為に動転して、ほうほうの体で逃げ出す。途中、奈落の底に落ちてしまうような恐怖に襲われ、幼くして死んだ純粋で優しい弟のアリー(Allie)に向かって「僕の身体を消さないでくれよ」と祈る。混乱し疲れきったホールデンは一人で西部へ行こうと決心するが、別れを告げるためにフィービーと会ってそのことを話すと、一緒に行きたいと泣かれる。二人で動物園に行き、回転木馬に乗ってぐるぐると回り続けるフィービーを見守りながら、ホールデンは突然言いようのない幸せな気持ちに包まれる。
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【名句】
I’m standing on the edge of some crazy cliff. What I have to do, I have to catch everybody if they start to go over the cliff.
「僕は危ない崖の縁にたってるんだ。僕の仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになったら、その子をつかまえてやることなのさ」