“slip”にはお気をつけください
早くも春の装いの女性が東京では次第に増えつつありますが、2月には珍しく、東京都心でも積雪が観測され、ニュースではしきりに「タイヤのスリップに気をつけてください」と呼びかけていました。
この <slip(スリップ)> は人やものが氷などのつるつるとした表面の上で 「つるりと滑る」 ことを意味しますが、他にも日常的に様々な場面で使われます。今回は、この <slip> の日本人にはあまりなじみのない使い方についてご紹介しましょう。
「ついうっかり」何かを忘れてしまった、ということを「失念した」などと言いますが、 <slip> はこれを表現するのにぴったりなのです。たとえば、このように言います:
■Boss:“Have you confirmed our clients about our business lunch tomorrow?”
Secretary:“Oh I'm so sorry, it completely slipped out of my memory! I'll call them right away!”
(上司:「クライアントに明日のビジネス ・ ランチについてコンファームしてくれたかね?」
秘書:「本当にごめんなさい、完全に失念していました(うっかり忘れていました)!すぐに電話をかけます!」)
このように、情報が記憶から「抜け落ちる」、「消え去る」ことを <slip> を使って <slip out of (one's) mind/memory> と言います。また、<away> と共に使うと:
■I had all the necessary data memorized but it slipped away during the interview and my mind completely went blank.
(必要なデータはすべて暗記していたのに、面接の時にぜんぶ忘れてしまい、頭が真っ白になってしまった)
このように、必要な情報がまるごと、一気につるりと、まるで滑るように頭の中から失われてしまった、という感じを表現できます。<(one's) mind go blank> は、<mind(頭・意識)> が <blank(空白・真っ白)> になるということですから、日本語と同じで「頭が真っ白になる」という意味になります。
「滑る」という <slip> のもともとの意味が与える印象が、様々な場面で転用されていった結果、色々な表現が生まれたのだと思います。もう一つ面白い使い方で「口を滑らせる」があります:
■The company's confidential information just slipped out of me (my mouth).
(会社の機密情報をついうっかり (口を滑らせて) 漏らしてしまった)
※confidential information………機密情報
日本語でも秘密を漏らしてしまうことを口を 「滑らせる」 と言いますが、情報が 「つるり」 と漏れてしまう感覚は英語でも同じく <slip> で表現されるのは興味深いですね。
また、 「秘密にしておきたい情報などが外部に漏れる」 ことにも <slip> はよく用いられます:
■Don't let it slip to your colleagues about the fact that you are thinking of leaving the firm.
(会社を去ることを考えていることを同僚にうっかり漏らさないように(知られないように))
このほかにも、前回取り上げた景気関連では、<the economy slipped> と言えば「経済状況が悪化した」を表すなど、何かの量・質が「滑り落ちる」時に使われます。また、「こっそりと抜け出す」ことを以下のように表現することができます:
■I slipped out of the conference room to get a cup of coffee.
(コーヒー一杯が欲しかったので会議室からこっそりと抜け出した)
あるいは逆に、するりと、たやすく何かになじむ時にも用います:
■I slipped into the environment of the new company easily.
(新しい会社の環境にたやすくなじんだ)
「するりと」 何かから抜け出す、 あるいは入り込む感覚を表したい時には <slip> はとても便利なので、状況によって「ここで使えるかな?」 とチャレンジしてみてもいいと思います。 ニュースやネイティブの会話で <slip> が出てきたら <don't let it slip>、「見過ごすことのないように」チェックしてみてください。