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2011年2月 2日 (水)

“New Realities(新しい現実)”と呼ばれる時代に突入した世界経済にまつわる英語

この原稿を書いている間にも刻一刻と <Egyptian  Uprising> ――ムバラク大統領の退陣を求めるエジプトの民衆デモ――の情勢は変化していっています。エジプトの一般市民の間に溜まっていた不満がこのタイミングで爆発した理由の一つは、食料価格の高騰です。

昨年から新興諸国で食品を中心としたインフレが深刻な問題となっていましたが、食品のみならず、不動産から株式まで、ありとあらゆるものの価格がつりあがり、バブル経済が懸念されている新興諸国と、政府がいくらお金を市場に投じてもなかなか人とモノが動かない先進諸国とでは、経済のあり方が180度異なっています。

今回は、世界経済におけるふたつの異なる大きな流れにまつわる英語についてご紹介します。

まず、食品価格が上昇している理由には主に以下の三点が挙げられます:

1)bad weather(悪天候などの気象条件)
2)increased secular food consumption due to post-financial crisis economic recovery and growth in the emerging markets(新興市場 (BRICs などの新興国の市場)の金融危機後の景気回復と成長による長期的な食料消費の増加)
3)underinvestment in agriculture(農業への投資不足)

2)の <secular food consumption> の <secular> は、 通常ですと「世俗的」を意味しますので、<secular consumption> と言うと「世俗的な消費」 なのかと勘違いしがちですが、 経済においては「長期的な消費」を意味します。 <long-run consumption> と同じ意味です。全体的に新興諸国の人々の生活レベルが上昇したことは、食品価格を「一時的(temporary)」ないし「短期的(short-term)」ではなく、「長期的」に「上昇させる」要因となっている、ということです。だからこそ、より現在の食料問題は大変な難題ととらえられています。

先月30日までスイスのダボスで開かれていた世界経済フォーラムでも主要な議題となっていましたが、今世界経済には「停滞する先進諸国」と「躍進をつづける新興諸国」というまったく異なるふたつの流れが存在します。この分裂した経済潮流を <diverging economic trends> と言います。

<diverge> とは「分かれる、分散する、物事の様子が異なる、違っている」ことを意味します。つまり、経済危機の打撃を先進諸国ほどに受けなかった結果、製造業を中心に成長してゆく中国、インド、ブラジルなどの新興諸国と、多額の公的資金を投じてもぎりぎりの低成長にあえぎ、なかなか雇用状況が改善しない先進諸国とで、経済の流れが「分岐している」、明暗が「分かれている」ことを表し、最近英語ニュースですっかり定着してきた表現です。

この <diverging> な状態にあることが、 食品インフレをより一層深刻なものとしています。なぜなら:

Thanks to the easy monetary policy in the United States and Japan, floods of investment to the emerging markets have been promoting commodity inflation and asset bubbles.
(アメリカと日本における金融緩和政策によって、投資が新興市場に流れ込み、食料品のインフレと資産バブルを引き起こしてきた)

thanks to~ ………(due to~と同じ意味で)~の理由により、~のために
monetary policy …金融政策
commodity …………食料品(原材料などの一次産品全般を指しますが、ここでは主に食料の話なので食料品としました)
asset ………………資産(投機的資金の流入によって、新興諸国での不動産バブルが問題になっています)

景気刺激策の一環として日米両国では超低金利がつづいています。この低金利政策と公的金融機関によってお金が直接、市場に投入されたことで、世界的に「金余り状態」が発生し、余った資金は、いち早く成長軌道に乗った新興市場へと向かいました。こうして、新興国では不動産から日常品まで、ありとあらゆるものの値段が上昇。これを抑えるために新興国の中央銀行は逆に「金融引き締め」策に転換し、経済の過熱を抑えようとするのですが、これがまた新たに先進国から資金を呼んでしまうという悩ましい状況に陥っています。というのも、金利が低い国の通貨で資産を持っているよりは、より金利の高い国においていた方が得ということで、資金は金利がより高い新興国に向かうからです。

先進国と新興国では事情がまったく異なることが、相互に影響しあって解決しがたい問題を生んでいる現在の状況を、ダボス会議では <New Realities (新しい現実)> と名づけました。 つまり、<diverging economies>、異なる経済の流れが存在する、 いままでの常識が通用しないまったく新しい時代に入っている、ということなのです。新興国では「成長」は喜ばしいだけではありません。急激な成長と、富のアンバランスな配分が、成長の恩恵にあずかるどころかむしろ損をしていると感じている大多数の一般庶民の不満に火をつけています。その大きな原因のひとつは、ここ日本から大量に流れ出る資金であることを私たちはしっかりと認識しておく必要があるといえるでしょう。「新しい現実」、<New Realities> の、あまりモノは言わずとも実は世界を大きく動かしているのが日本人。世界はどうあるべきか、という議論が進んでいますが、私たちも積極的に発言していくべきなのではないでしょうか。