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2010年12月 1日 (水)

“No Labels(ラベル無し)”の政治運動にみる「ねじれ」克服の可能性

日本でもアメリカでも、政権与党の基盤が弱まることによって、政治状況の混迷が深まっています。11月2日に行われた中間選挙で、下院の支配政党が共和党になり、重要法案をめぐって上院(とオバマ大統領率いる政府)と、下院の意見が真っ向から対立する構図となりました。このような状況をアメリカでは <divided government> と呼びます。日本の「ねじれ国会」と同じ状況です:

For years, US citizens have been thinking that the divided government is not necessarily a situation to be lamented for it can keep the government in check, however, in the recent years, partisan politics have intensified to the level that could undermine American people's everyday life, and people are beginning to wonder whether there is a way to manage the division.
(アメリカ市民は長らく、分裂した政府(日本的に言えば「ねじれ国会」状態)は、政府をチェック(政府の力を抑止)することができるので、必ずしも嘆かれるべき状況ではないと考えてきたが、近年、党派政治の激化がアメリカ国民の日常生活を根幹から揺るがしかねないレベルにまで達していることから、分裂をうまくコントロールする手段はないものかと考え始めている)

lamented…………………嘆かわしい
keep~in check…………~をチェックする、監視する、抑止する
partisan politics………党派政治
intensify…………………激化する、増す、高まる
undermine………………土台・根元を削り去る=根幹から揺るがす
manage……………………なんとかうまく扱う=うまくコントロールする

党派政治は <partisan politics> ですが、 この <partisan> をラテン読みすると、「パルチザン」となります。自国を占領する外国軍に対する、その国の人々による地下抵抗活動などを表現する時に使われることが多い印象がありますが、つまるところ <party(党派)> への「所属意識が強い」ことです(<partisan> は「党派心の強い」という意味)。ですから、<partisan politics> は、異なる政党間の対立が激しい政治状況を指します。その反対に、「党派を超えて」、共和党と民主党が協力することを <bipartisan> といいます。<bi> は「二つの」を意味する接頭語なので、直訳すれば単純に「二政党」ですが、最近のアメリカ政治の文脈では「共和党」と「民主党」による「二党派連携」を表します:

Witnessing the lack of bipartisan effort in the Congress, moderates in the US are forming a new movement called“No Labels”to tackle partisan crush that seems to be overtaking the Washington politics.
(議会における超党派的な努力が欠如していることを目にして、アメリカ合衆国の中道派(穏健派) は、ワシントン政治を席巻(せっけん)しつつあるかのように見える党派対立の問題に取り組むために <No Labels (ラベルなし)> という新しい運動を形成しつつある)

moderate………………節度のある、穏健な、調停役=穏健派・中道派
partisan crush………党派対立・衝突
overtake………………乗っ取る、席巻(せっけん)する、~によって牛耳られる

<No Labels> の <label> は 「ラベルを貼る」などと日本語でも言うように、何かに札をつけて、定義づけることを意味します。つまり「ラベルなし」とは、「右派・左派」、「保守・リベラル」、あるいは「共和党・民主党」などの特定の政党、といった「ラベルがない」ということを指します。言ってみれば、日本における「無党派」という言葉と近いとも言えるでしょう。茶会運動などのやや過激とも言える保守的な運動や、また極端に左派よりの政治運動ばかりがメディアで取り上げられ、共和党と民主党の対立がどんどんエスカレートし、財政赤字対策など、重要案件の議論が止まってしまうことを危惧した <moderates (中道派・穏健派)> の政治コラムニストや有権者が中心となって <No  Labels> という運動を立ち上げたのです。

この <No Labels> 運動のスローガンは:

Not left , not right, go forward.
(右でも、左でもなく、前へ進め)

日々空転する国会審議を見ながら、日本の有権者もまさに同じことを国会議員に言いたいところでしょう。<No Labels> 運動はまだ始まったばかりですが、昨今の政治的行詰りを打破するためのひとつの可能性として、その発展過程には注目してゆきたいと思います。