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2010年10月20日 (水)

“down to earth” で 「グラウンディング」された人とは?

<down to earth> という英語表現があります。これは日本語の「地に足がついている」という表現とほぼ同じ意味で使われます。ある人を <down to earth> と評す場合は、かなりほめていることになります。
たとえば:

Michael is a very down to earth person.  He can be trusted. When you have something you feel like you can't tell anyone, then you can count on him. I'm sure he'll have good advice to give you.
(マイケルはとても地に足がついた人だ。彼は信頼できる。誰にも言えないと感じていることがある時は、彼なら(話しても)大丈夫だよ。彼はあなたに対してよいアドバイスを与えてくれるだろう)

count on ………………………………頼りにする

特定のものごとに関してであれば <realistic> を使います。

He's realistic about starting a new business.
(彼は新しいビジネスを起こすことに関して現実的考えている)

と、「現実的に捉えている・考えている」という意味で使われますが、ある人全体を形容する場合は、最初の例文のように、<down to earth> で表現します。

<earth> は 「地球・大地」 ですが、基本的に英語でも日本語でも「大地・地面」につながっていることは「しっかりとした・安定した」 ことを表します。 たとえば、 <foundation> という単語は、「基礎・土台・よりどころ」という意味です。議論・意見などのロジックの骨組みがしっかりとしている時に、次のように言われます:

Your opinion has a firm academic foundation.
(君の意見はしっかりとした学問的な
土台に基づいている(を根拠としている))

<foundation> は <found> という動詞と同じファミリーの言葉です。<found> というと、<find> の過去形がすぐ頭に浮かびますが、 これとは別の言葉です。何かを「創立する、土台を立てる」という意味の言葉で、 たとえばジョージ ・ ワシントンなどの 「アメリカ建国の父」 をアメリカ人はよく <Founding Fathers of the United States> と表現します。つまり、国の土台を作った人々、ということ。

この <found> は、 フランス語の 「奥・底・下部」を指す <fond> という言葉から来ていますが、語源をたどるとラテン語の <fundus> にたどりつきます。ラテン語では、「下・土地の一部」を意味します。つまり、<foundation> があること、 あるいは何かを <found> することも「大地・地面」に根ざしているのです。

この <foundation>、<found>、<down to earth> という表現が組み合わさったような言葉を最近よく耳にします。それは <grounding> です。たとえばこんな風に使われます:

When I’m too busy, I begin to feel that my mind is in a constant rush, thinking about my job twenty-four seven, always anxious, and worrying about everything.  When I feel that way, I make myself go out into the nature.  After an hour of walking in the woods, I discover that what I needed was grounding.
(忙しすぎるときは、私は思考が常に焦っていると感じ、仕事について四六時中考え、いつも不安で、すべてのことに関して心配するようになってしまいます。そんな風に感じたときは、私は自然の中に行くようにしています。森の中で一時間歩いたあとは、私は自分にとって必要だったのはグラウンディングだと気づきます)

twenty-four seven ………………四六時中

これはどういう意味でしょうか? すこし、大きな話になりますが、古代ギリシャ人は「健全な精神は健全なからだに宿る」と考えましたが、西洋の現代医学は 「こころ」と 「からだ」をまったく別の側面からアプローチするものと捉えるようになりました。これにより、「こころ」の問題は精神科医によって、そして身体の問題は内科医や外科医によって治療されることが当たり前になりました。ところが、最近では「こころ」のストレスがいかに「身体」に不調を及ぼすのかがよく知られるようになり、「こころ」と「からだ」をトータルで捉える視点を取り戻すことが重要であると、多くの人が認識しつつあります。その中で、<grounding> というものが大変重要であると考える人が増えているのです。

アメリカの俗語で精神科医を <shrink> と呼びますが、これは肥大しすぎてしまった「思考・マインド」を「縮ませる」という意味からきているそうです。ストレスを抱えると、被害妄想がひどくなってしまうことは誰にでも経験があるのではないでしょうか。それは、「現実」をきちんと見ることができなくなり、頭の中で自分にしか見えない妄想がどんどんと肥大化してしまう。そんなモードに入ってしまった「頭」(あるいは 「こころ」 )をもう一度「からだ」にくっつけて、統合してあげること、それが <grounding> です。

「こころ」と 「からだ」 が統合されている、ということは、両足がしっかりと大地を踏みしめて、五感で空気や湿度を感じていること、つまり「この世界・自然」を把握できている状態です。頭だけがくるくると高速度で回転してしまう、いわゆる「頭でっかち」な状態は、バランスを欠いています。そんな焦りがちな「頭」と「こころ」を落ち着かせ、からだの基礎、つまり <foundation> がしっかりとしていて、<down to earth> =「地に足がついている」人を <grounded> した人、<grounding> ができた人と呼びます。

この <grounding>  のニュアンスはなかなか日本語に訳しづらいところがあります。たとえば、「からだ」と「こころ」と「大地」を一本の「軸」でつなげる、という意味で「軸立て」などがよいかもしれません。ただ、日本でもカタカナ英語としての「グラウンディング」は、ちょっとずつ広まりはじめているので、もしこのコトバに触れる機会があったら、ここにご紹介したように深いひだを持つ単語であることを思い出していただければ幸いです。