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2010年7月20日 (火)

「こだわり」にこだわってみると「philosophy(哲学)」が見えてくる?

6月号のアメリカ版『Vogue』の編集後記を読んでいたら、 こんな一文に出会いました:

“Our June issue is often focused on the idea of “escapes”and the pleasures and novelty of encountering something or someone entirely new. This year, however, we began with that premise,“Let's shoot Green Day on Broadway!” my editors insisted and then realized that some of our favorite discoveries reside closer to home.”
(「私たちの6月号はよく「逃避」、そして何かまったく新しいものや人と出会うことの楽しみや目新しさ、という考え方に焦点を当てています。ですが今年は、編集者たちがこだわった「グリーン・デイの撮影をブロードウェーでやりましょう! 」という前提条件から(雑誌編集を)はじめました。そして私たちのいくつかのお気に入りの発見は家の近くにあるんだということに気づきました」)

pleasure ……………………………楽しみ、喜び
novelty …………………………… 目新しさ、斬新さ
premise …………………………… 前提条件
shoot  ………………………………~を撮影する
Green Day ………………………… グリーン・デイ。 アメリカのパンク・ロックバンド
reside ………………………………存在する

アメリカ版『Vogue』誌は、 映画の題材などにもなっているファッション界の女王、アナ・ウィンターがトップ。だからこそ、どこよりもその編集方針、ファッションの方向性には「こだわり」のある雑誌として知られています。

日本語で「こだわりのある人」というと、ぶれることのない一本の筋が通った人が、哲学、ポリシーがあって、それに対して「こだわる」ということで、どちらかと言えばポジティブなほめ言葉です。これに対し、上の文章に出てくる <insist> は、必ずしもポジティブとは言いがたいもの。

<my editors insited> とありますが、アメリカの出版界の <editor> とは、 まさに「編集権」を持っている人のことで、特に『Vogue』のような大きな影響力のある雑誌では <editor> はかなり上の方の人たちです。<editor in chief> は「編集長」のことですが、アナ・ウィンターのような編集トップは、その出版社自体の経営方針などにも関わる強い影響力・発言力を持っています。

この 『Vogue』誌の6月号編集方針に関する文章から読み取れるのは、アナ・ウィンターを含めた編集トップたちが、避暑地などに <escape(逃避)> し、避暑地で撮影した写真を中心とした、 毎年のように行われる「夏休み企画」とは一線を画した、視点を変えた特集を組みたい、 という <premise(前提条件)> に対して、「一体どうすれば差をつけられるだろう?」と試行錯誤したのでしょう。結果として、 6月号は、 ニューヨークのブロードウェーという、ニューヨーカーにとってみれば「近場」で撮影された写真が、新鮮さを放っています。上司の「こだわり」にやや振り回されながらも、それに応え、結果を出せた安堵感が伝わってくる文章なのです。

<insist> は、 <insist on/upon ~> という形で使われ、「~を主張する」、「~を強調する」というニュートラルな意味がある一方で、強く言い張り、自分の主張を曲げない、という意味から、物事を「強く要求する、言い張って譲らない」「どうしてもと言い張る、がんとして言うことを聞かない」、あるいは何かを「やめようとしない、~して困らせる」というかなりネガティブな意味も持つ言葉です(ジーニアス英和辞典)。

ネガティブな <insist on ~> はこのように使われます:

My boss insisted on his idea and had no room to listen to other people's opinions.
(私の上司は自分の考えに固執し他人の意見に聞く耳を持っていませんでした)

あるいは、

The leading party passed the bill with insistence and did not allow discussion time for the minority senators.
(与党は法案を強要(無理強い)して通過させ、野党の議員に議論をする時間を与えなかった)

などです。名詞形でも、「こだわり」が強すぎてネガティブになるというニュアンスは変わりません。日本語でも「こだわる」という動詞となると英語の <insist> が近い場合もありますが、「こだわり」という名詞形になると、ちょっと違います。「こだわり」(名詞形)は、

He's the man of principles.
(彼は主義主張のある人だ」⇒「彼はこだわりのある人だ)

She has her own philosophy when it comes to fashion.
(ファッションに関しては彼女はこだわりのある人だ)

など、<principle>、<philosophy> といった単語を用いて表現したほうがよいでしょう。カタカナ英語の「ポリシー」に近いです。ただ、ふだん私たちが日本語の会話の中で使う「こだわりのある人」などを指す「ポリシー」をそのままの感覚で使うと、 <policy> は <economic policy(経済政策)> など、国家や政治団体の「主義・信条」のイメージがあるので、ちょっとズレが生じてしまいます。日本語に直すと「哲学」となるのでずいぶん硬くなってしまいますが、やはり一番便利なのは、<philosophy> でしょう。

「こだわり」のある人、それはつまり <philosophy> ─「哲学」のある人なのです。