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2010年2月 3日 (水)

Are you HAPPY?  あなたは「幸せ」ですか?

突然ですが、

Are you happy?
(あなたは幸せですか?)

もし答えが「否 <no>」であったなら、

What do you think is the key to happiness?
幸せへの鍵は何だと思いますか?)

1月16/17日付の英 “Financial Times” に、とても興味深い記事がありました。タイトルは:

“Where happiness lies - The pursuit of bliss should not be founded on denial or illusion”
(「幸せのある場所 - 至福の喜びの追求は否定や幻想に基づくべきではない」)
URL:
http://www.ft.com/cms/s/2/31a31ea6-0161-11df-8c54-00144feabdc0.html

denial……………………否定、拒否
illusion…………………幻想

ほぼ一面を使い切る思い切ったレイアウトのこの記事は、哲学誌を中心に活躍するエディター、ジュリアン・バッジーニが寄稿したもの。中央にミュージカル映画の不朽の名作、『雨に唄えば』の有名なワンシーンが大きくプリントされています。ジーン・ケリーが、どしゃぶりの雨の中、街灯に飛びつき、歓喜あふれる表情で歌い上げるあのシーン。

記事では、 近年の <happiness> を扱う書籍の隆盛と、その歴史的背景、現代社会の様相、中でも特に「先進諸国」における「幸せ」を覚えることの困難さ、についてが論じられています。 

この現象の端緒を作ったとされているのが1998年当時アメリカ心理学会会長だったマーティン・セリグマンだと、バッジーニは書いてます。

“(Martin Seligman) began promoting the message that psychology needed to get over its historic obsession with what made people feel bad and start thinking about what made them feel good instead.  His 2002 book, "Authentic Happiness," became an international bestseller.”
(「(マーティン・セリグマンは)心理学は人々に罪悪感を抱かせることへの歴史的なこだわりを乗り越え、その代わりに人々を良い気分にさせることを考え始める必要性があることを提唱しはじめた。2002年に刊行された彼の著書『世界でひとつだけの幸せ―ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人生』は、国際的なベストセラーとなった」)

get over……………………克服する、打ち勝つ
obsession with……………~にこだわること、執着すること

言われてみれば確かに心理学は、フロイトに始まり「トラウマ」など、「悲しい」かつ「苦しい」ことに焦点を絞ってきた歴史的経緯があります。もちろん、そういった苦しい体験に正面から向き合った果てに拓けた地平に、何らかの救いが待っている、という前提はあるようですが。

先進諸国で、「うつ」をはじめとする「心」の病が大きな社会問題となっています。ここ日本でも「自殺者が3万人を超えた」ということが毎年のようにニュースになります。

地域に根ざしたカウンセリングに力を入れたイギリス政府の取り組みが、効果を見せ始めていることから、日本の医療にも取り入れて行こうという意見が医療関係者や行政から出始めています。イギリスの「うつ」への取り組みの設計図を作ったのは、(心理学ではなく経済学の分野で)「幸福研究」の専門家、リチャード・レイヤード卿(ロンドン大学経済学部、経済成果研究所所長 )です(Baggini, FT)。

これは、「幸せ」が、心理学にとどまらず、社会学から経済学に到るまで、幅広い分野でホットな研究テーマとなっていることの現れと言えるでしょう。

バッジーニの記事では、幸せはその「再分配」をどう考えるか、という意味で「政治」と密接に関わってくる点が指摘されています。つまり、現在一番困っている人々の「幸せ」を守り、増進させるために「幸せ」の資本を一極に集中投下するのか、あるいはより広い時間軸で考え、将来の世代の「幸せ」を守るため「幸せの財政均衡」を重視するのか……「幸せ」を国家財政という数字で表す視点から見ると、そういうことになるのだそうです。

こう考えてくると……“Time is money.(時は金なり)”と言いますが、むしろ今は:

Happiness is money.
幸せは金なり)

の時代なのかもしれません。

さて、 経済成長を遂げ、 先進国の仲間入りを果たすと、「自分が <幸せ> だと感じる人が必ずしも増えるわけではない」 という調査結果が各国で報告されています (みずほ総研 Working Papers 2009年9月17日付「重要度が増す『幸福度』研究」参照)。

ある一定の生活水準が満たされることは、幸福への最低条件。でも、そのさらに先へと経済が拡大したとき、「心」の「苦しみ」を覚える人が増えるのは、それ自体として、とても心苦しい気持ちにさせられます。

Why can't we be happy just as we are, when we have at last attained the wealth we have longed and strived for all those years?
(長年にわたって追い求め、めざし続けてきた豊かさをやっと手にした時に、なぜ私たちは今あるがままの姿を幸せだと感じられないのでしょうか?)

long………………………追い求める、熱望する
strive……………………努力する、励む

多くの専門家の頭を抱えこませるこの皮肉なパラドックスを解く鍵は、ジーン・ケリーの『雨に唄えば』の歌詞の中に込められているように思います:

“I'm dancin' and singin' in the rain Why am I smiling and why do I sing? ...Because I am living a life full of you”

七尾流に訳すとこうなります:

「僕は雨の中で踊り、歌っている。なんで僕が笑って、踊っているのかって?(中略)それは僕が『あなた』でいっぱいにつまった人生を生きているからだよ」

原稿を書いている、 今日の東京に久々の雪が降りました。 外から帰ってきて、 靴も靴下も冷たくってびしょびしょ。 でも “I'm singing in the rain♪” の <rain> を <snow> に置き換えて口ずさんでみると、すべてを覆う白い雪に、心があらわれるような心持になります(滑って転んではいけないので、スキップは踏まないように気をつけましたが)。

次回は、life full of <you>,― 即ち「他者」のために生きることが、 なぜ <happiness> への鍵となるのかについて考えます。日本の「禅」を英語で海外に紹介した、鈴木大拙著“An Introduction to Zen Buddhism”などを参考にします。 予習として「禅」の入門書、『新版 禅とは何か』(角川ソフィア文庫)を読んでおくことをおすすめします。

Wish you a happy week!