オバマ大統領平和賞受賞の理由:
Nobel's will and will for peace
アメリカ合衆国のオバマ大統領が2009年10月9日、ノーベル平和賞を受賞しました。 その速報が入った時、 私は日本テレビで『NEWS ZERO』のオンエア前の会議に出席していました。 会議に届けられたノルウェー・ノーベル委員会が発表した選考理由を読み、私は少なからず感銘を覚えました。 その英語の文章がとても 「良い文章」だったからです。そこで、今回から数回にわたって「ノーベル賞の英語」を取り上げます。まずは、ノーベル賞の創設者であるアルフレッド・ノーベルが、どのような理念に基づいて賞を設けたかを振り返ってみましょう。
ダイナマイトの発明者であるスウェーデン人大富豪、アルフレッド・ノーベルの遺言には、ノーベル賞創設の目的が以下の様に記されています:
■"The whole of my remaining realizable estate shall be dealt with in the following way: the capital, invested in safe securities by my executors, shall constitute a fund, the interest on which shall be annually distributed in the form of prizes to those who, during the preceding year, shall have conferred the greatest benefit on mankind."
http://nobelprize.org/alfred_nobel/will/will-full.html
(「私の残りの換金可能な財産のすべては以下の通り処理されるべきである:資産は、遺言執行人によって安定した証券に投資され、その利子は、その前年に人類に最も偉大な貢献をした人々に毎年賞金を分配するために使われるものとする」)
・estate ……………………(ある人のすべての)財産
・capital …………………… 資金
・interest ………………… 利子
・confe(rred)……………(恩恵などを)与える、贈る。
ノーベルが発明したダイナマイトは、トンネルの掘削(くっさく)工事など、人類の「為になる」場所で大いに利用される一方、戦場で多くの人の命を奪う武器にも使われるもの。このため、自責の念に捕らわれ続けていたとされるノーベルが、科学の平和利用を祈ってノーベル賞を創設したのは、周知のところです。
中でも、ノーベル「平和賞」は特別です。というのも、ノーベル賞の中で「平和賞」のみが、スウェーデンではなくノルウェー国会が任命する、「ノルウェー・ノーベル委員会」によって選考が行われます。これは、アルフレッド・ノーベル自身が、戦争を繰り返してきたスウェーデンとノルウェー両国の平和を願ったからだとされています。ノーベル平和賞がどのような人に授けられるべきかは、ノーベル自身によって遺言状に明記されています:
■"...one part to the person who shall have done the most or the best work for fraternity between nations, for the abolition or reduction of standing armies and for the holding and promotion of peace congresses."
(「一部は、国家間の友愛、常備軍の廃絶ないし削減、和平会議の開催と推進のために、最大、もしくは最良の働きを行った人物に(贈られる)」)
・fraternity ……………… 友愛
・peace congresses …… 和平会議、平和のための話し合い
このノーベル自身が書いた授賞の条件は、短いものの、かなり具体的なものであることが、実際の受賞者に当てはめるとわかります。では、オバマ大統領の場合はどうでしょう?
世界的には、オバマ大統領の受賞は、おおむね好意的に受け止められましたが、アメリカ国内には批判的な意見が一定数あるようです。というのも、イラン核問題はなかなか進展せず、アフガン情勢は日毎に泥沼化していっているからです。現時点では、まだオバマ大統領の 「言葉」 が先行しているだけで、具体的な成果が見えないのだから「時期尚早だ」、というのが否定的な見方をする人の意見でしょう。
ただ、ノーベル氏が挙げた授賞の基本的な条件に、「 <peace congreses> を開催・推進するべく尽力した人」 とあります。<congress> は「集まって話し合いを行う」こと。つまり、「軍事力」という「力」に依存するのではなく、「話し合い」によって国と国との間の「友愛」を目指すのが <peace congress> なのです。オバマ大統領はすでに、ブッシュ政権における「単独行動主義」から脱却し、「多国間」による「話し合い」へと、アメリカ外交の舵を大きく切ることを宣言しています。依然として、世界一の大国であるアメリカが、「対話重視」へと転換したことには、大きな意義があると言ってよいでしょう。
また、<for the abolition or reduction of standing armies> とあるように「常備軍の廃絶ないし削減のため」、に貢献することも条件の一つとなっています。これに関しては、オバマ大統領が、米露間の戦略核兵器削減条約を大筋で合意する方向で交渉を進めていることと、日本人にも感銘を与えた、「核なき世界」を目指すことを宣言した、「プラハ演説」ですでに第一段階はクリアした感があります。
そして、 <who shall have done the most or the best work for fraternity between nations「国家間の友愛のために最大、もしくは最良の働きをした人」> に関しては、国境を越えて世界中の人々に訴えかける、オバマ大統領の「言葉の力」に、異議を申し立てる人はなかなかいないのではないでしょうか。色々問題は山積みだけれど、もしかしたら「何かが変わる」かもしれない、そんな希望を聴衆の心に芽生えさせるオバマ大統領の力は、 「友愛のための働き」 だと言えるでしょう。
次回は、ノルウェー・ノーベル委員会が発表した、選考理由の英語を詳しく掘り下げてみたいと思います。







