前の記事へ |  トップページへ |  次の記事へ

2009年6月 8日 (月)

「社員旅行」は外資系企業でも大事?
"Weekend offsite"

貴方は社員旅行にいらっしゃったことはありますか? 私は会社に所属したことが無いので、「社員旅行」の話題が出るとちょっと羨ましくなります……なんてことを言うと「会社員をやったことが無いからそう言えるんでしょう。実際参加させられる社員は大変ですよ」というツッコミが入ってきそうです。

「社員旅行」。高度経済成長期にあった日本のサラリーマン社会の象徴のような感じもする言葉です。大宴会場で部長も平社員もそろいの浴衣姿で、 ビールをついで回る。 宴会芸でやんややんやの大騒ぎになり、あちこちで怒り出す人や泣き出す人が出てくる……そんなイメージです。

社内のこうした行事に参加することは、日本社会では非常に大事だとされてきました。いわゆる「飲ミュニケーション」という「付き合い」。日本のサラリーマンの人事は酒の席で決まる、なんて言う人もいるほど。では果たして、そういった文化は本当に日本特有のものなのでしょうか?

私は友人や家族が勤めている会社の「社員向けイベント」に参加したことが何度かあります。どれも外資系か、日本資本であっても海外の影響が濃い会社でした。そんなとき、例えば以下のようなメールが転送されてきます:

Dear Aika,
Are you by any chance free this weekend?  My section is having an offsite and I'd love to have you with us to meet my colleagues.  It'll be a good opportunity for you to make new connections in finance, too.
Takako
----forwarded message---- 
We will be hosting our company's offsite at our Manager's country house in Karuizawa this weekend.  It will be an at home, weekend house party, so please bring your partners, families, and friends.
 
(藍佳へ
今週末空いてるかな? 私の部署がオフサイトをやるんだけど、ぜひ貴女にきてもらって同僚に紹介したいです。貴女にとっても金融界で新しい人脈を作るいい機会になると思うし。たかこより
---転送メッセージ--- 
今週末、部長の軽井沢の別荘で、我が社のオフサイトを行うことになりました。 アットホームな 「ウィークエンド・ハウス・パーティー」になりますので、ぜひパートナー、ご家族、ご友人を連れていらしてください)

<offsite> とは「通常とは別の場所で行われるもの」という意味ですが、企業で使われる場合は、 「会社の外」 で行われる部署ごとの「旅行」や「パーティー」 などのイベントを指します。 また、会社の 「中」 で行われ、直接的な業務ではない「勉強会」などは <onsite> と呼ばれます:

This evening, we will have an onsite at the conference room No.1.  Our analyst will be casually explaining the newly installed accounting related law.  We'll serve you some wine and cheese.
(今夜、第一会議室でオンサイト=勉強会を開きます。我が社のアナリストが新しく実施された会計関連法についてカジュアルな雰囲気で説明します。ワインとチーズもご用意します)

さらに、社内向けに会社の重役が行う業績発表は <townhall> と呼ばれます:

To colleagues:
Our company's board of directors will be holding a townhall after lunch today.  We cannot escape the current economic downturn, but the latest numbers show we are withstanding the blow quite well.  Please be there in order to confirm what we stand for, what we strive for, and what the obstacles are.

(同僚の皆様:我が社の取締役会が今日、昼休みのあとにタウンホールを開きます。我々も現下の経済不況から逃れることはできませんが、最新の数字は我が社がかなりよく打撃に対してもちこたえていることを示しています。我々の存在意義、目指すもの、そしてその障害となっているものは何かを確認するためにぜひ参加してください)

board of directors      役員会
withstand            よく耐える、もちこたえる
stand for~          ~のために存在している
obstacles                   障害

政治家などが有権者と語り合う「タウンホール・ミーティング」は日本でもだいぶ定着してきた感がありますが、企業の townhall も元は同じ意味。townhall は 「町の公会堂」 にあたり、<townhall meeting> は本来、 町や村といった小さなコミュニティのメンバーに向けて行われるものであるため、 上の英文中の  <townhall> は 「社内=身内」に対する「業績発表」を意味するのではないでしょうか。

外資系の会社でよく聞く offsite  にはワイナリー巡りなどの日帰り旅行があります。ワイナリー巡りなんていうと、ずいぶん優雅な印象を受けますが、<offsite> でも午前中に大事な会議が開かれ、普段の業務ではカバーできないような組織の本質的な問題・課題を議論する会社が多いようです。そういったマジメな会議のあとのご褒美として <socialization event (社交イベント)> と言われるBBQなどのお楽しみがあると言えるでしょう。

offsite に限らず、go out drinking と表現される夜の「飲み」や、ゴルフなどの社内の「付き合い」も上司の心象を良くすために必要不可欠です。 また、dinnercocktail party という社外・社内を問わない networking = 知り合いを作る・ 人脈を広げるため
のイベントにこまめに参加することも評価の対象となります。

・He's not sociable.     「彼は付き合いが悪い・社交的じゃない」
・He's not friendly.      「彼はフレンドリーじゃない」
・He's a difficult person  「彼は付き合いづらい」

と同僚や上司に言われることは、アメリカでもとてもマイナスです。

同僚や取引先との「コミュニケーション能力」が重要視される「外資系」。その「コミュニケーション」とは要するに「人付き合い」です。イベントの種類の多さや、必要とされる知識や能力(ワイン、ゴルフ、テニス、バーベキューで火をうまくおこす、など)の広さを考えると、外資系企業ではむしろ日本企業よりも「付き合い」が大事、とも言えるでしょう。