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2009年5月20日 (水)

"Machiavellian Japanese Politics"
日本政治はマキアベリズム?

「マキアベリズム」と聞いてあなたは何を思い浮かべますか? 
フィレンツェのニッコロ ・ マキアベリが500年近く前に著した『君主論』は、当時の君主に国を統治するためのテクニックを教えることを目的に書かれたと言われています。

英語のタイトルは "The Prince"。 マキアベリがチェーザレ ・ ボルジアという、 目的のためには時として暴力を含め、「手段」 を選ばなかった人物を 「理想の君主」 としたため、  後世の人々は <Machiavelism>、あるいは <Machiavellian> ということばを 「権謀術数」の意味で使うようになりました。

この Machiavellian、現代でも政治ニュースでよく使われます。特に外国メディアが日本政治を描写するのに使われることが多いのですが、それは何故でしょう?

「政権交代」が最近の日本政治のキーワードになっていますが、今からさかのぼること18年前、 自民党が 「野党に下る=下野(げや)」の可能性が濃厚になっていた時期に書かれたボストン ・ グローブ紙の記事に <Machiavellian> が登場します:

Kaifu, whose reputation for integrity has gone a long way toward restoring the scandal-tainted image of the Liberal Democrats, should find himself in danger of losing office because of...Japan's Machiavellian political system, in which real power rests in the hands of a few faction leaders within the party. 
Colin Nickerson. "In Japan, a blow to the status quo." The Boston Globe. 1991.)
(清廉潔白だと評判の海部総理は、汚職にまみれているという自民党のイメージを大いに回復させてきたが、日本のマキアベリ的な政治システム―真の権力は少数の派閥の領袖(りょうしゅう)たちの手に握られているというシステム―によって首相の座を失う瀬戸際に立たされている)

go a long way  多いなる進歩をする、回復をする

有権者の目に見えるところ以外で 「権力闘争」 が起き、それが国を動かしているという意味で、アメリカの記者の目には日本政治が<machiavellian> だと映ったのでしょう。

実は、この記事には先日民主党代表を辞任した小沢一郎氏が登場します:

Ozawa, 48, a Liberal Democrat wheeler-dealer, is the man most responsible for rallying support for Kaifu within the faction-ridden party, which has governed Japan since 1955.
(小沢(48才)氏は、1955年以来日本の支配政党である自民党の「辣腕(らつわん)・やり手・策士 (wheeler-dealer)」で、「派閥に支配(faction-ridden)された党内」 で海部首相(政権)への支持を集めた立役者だ)

~ridden ~に支配された、~がやたらに多い

ここでは、小沢氏は自民党の <power broker(黒幕)> たちと闘う若き改革者・リーダーとして登場します。ですが、その闘う「手段」に注目してください:

His resignation will make it extremely difficult for Kaifu, who is popular with voters but distrusted by party power brokers, to keep the backing of the powerful faction leaders, such as former Prime Minister Noboru Takeshita, who really control the party -- and, by extension, Japan.
(小沢氏の辞任で、海部首相は、有力な派閥の長の支持を保ちつづけることが非常に難しくなった。海部氏は有権者からの人気は高いが、竹下元首相などを初めとした、自民党を実際に支配し、ひいては日本を支配している「黒幕(power broker)」たちからは信頼されていないからだ)

<broker> は株式などにも使われますが、 何かを「取引」する人。<power=権力> の 「ブローカー」 は、政治や経済における重要な決断に影響力を持っている人を指します。 つまり <power broker>とは文字通り「黒幕」です。

また、 小沢氏は <wheeler - dealer> と紹介されています。 この <wheeler-dealer> は辞書を引くと「辣腕 (らつわん)」という訳も出ていますが、与える印象は、裏で糸を引いて様々な戦略を仕掛けている人物、という感じです。

小沢氏自身、かつて「政治とは権力闘争です」と発言したことがありますが、「古い自民党」を壊すためには、ニッコロ・マキアベリがチェーザレ・ボルジアに教えたとされる <Machiavellism (権謀術数)> で「毒をもって毒を制す」必要があったのかもしれません。

マキアベリが『君主論』を書いた当時のイタリアは、細かい小国に別れての戦争が絶えなかった上、フランスなどの周辺諸国による侵略の危険性とも隣り合わせでした。マキアベリはイタリアを空中分解から救うために『君主論』を著したとも言われています。

いわば、「緊急事態(emergency situation)」 だからこそ、チェーザレ・ボルジアのような、見る人によっては「暴君」とも言える強力な指導者を必要としたのかもしれません。国家が危機にある時は強いリーダーシップが必要ですが、行きすぎるとネガティブな意
味での「マキアベリズム」が過剰になり「圧政」となってしまいかねません。「指導力」 と 「民主主義」は微妙な均衡のもとに成り立っているのです。

では「指導力」の発揮が「圧政」になるのを避けるにはどうすればよいのでしょうか? 『君主論』でマキアベリがリーダーにとって最も大事な資質の一つと考えたのが <virtue(徳)> です。今日本人がリーダーに最も求めているもの、それは <virtue(徳)> なのかもしれません。

Virtue might seem too vague and intangible, and therefore of no use in our daily lives.  Yet it is in deed the ruling factor for us in making important decisions of our lives,especially when we decide who is fit to take leadership.      
はつかみどころが無く、曖昧過ぎて、私たちの日常生活には必要ないと思えるかもしれません。ですが、人生において私たちが下す重要な決断を左右する要素です。特に、誰が指導者にふさわしいかを判断する場面において)