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2009年4月15日 (水)

『マイ・フェア・レディ』の「フェア」と「佳」

オードリー・ヘップバーン主演の 『マイ・フェア・レディ』 は、今の若い世代にも根強いファンが多い不朽の名作映画です。前回、<fair―公正> をテーマに Express Yourself をお届けしましたが、今回もひきつづき

fair

について。"My Fair Lady" を直訳すると:

「私の美しい人」

となります。「私の『公正な』人」ではありません。なぜなら、古英語で fair は主に、女性の姿かたちが美しく、魅力的なことを指したからです(現在は人への形容詞として fair が使われる場合は、「色が白い」、「金髪」を指すことが多いです)。 映画 『マイ・フェア ・ レディ』 は、 ヘップバーン演ずる下町娘のイライザ・ドゥーリトゥルの発音を、言語学者のヒギンズ教授が矯正し、上流階級のお嬢様に仕立て上げるというストーリー。

「きちんとした、古き良き英語」を使うことが大事だと思っているヒギンズ教授が出てくるようなお話ですから、女性を「美しい」というときも、ただ beautiful とせず、fair という文語的な表現を使ったのではないでしょうか。日本語で言えば、「眉目麗しい(みめうるわしい)」が fair に近いですね。

また、『マイ・フェア・レディ』のイライザはただ「美しい」だけではありません。古英語で fair には「尊敬できる」という意味もあります。この映画の見所のひとつが、イライザのことを「実験対象」としてしか見ていなかったヒギンズ教授が、彼女との交流を通して「人間」としてのイライザに関心を持ってゆくところです。

当初は、高いところからイライザに「教える」という立場だった教授が、外見や発音といった表面的なことだけでは人間の価値ははかりきれないということを彼女から逆に教えられてゆくのです。ただ「美しい」だけでなく、「尊敬」に値する人物という意味もこめて、ヒギンズ教授にとってイライザは my fair lady となったのではないでしょうか:

Miss. Doolittle has become someone respectful for Dr. Higgins, in that sense, someone truly fair for him.
(ドゥーリトゥル嬢は、ヒギンズ教授にとって尊敬できる人となったのです。その意味では、彼にとってまさにフェアな人です)

fair は現代でも、「公正」 の他に色々な意味で使われます。たとえば、CNNweather news を見ていると

Fair sky all across Japan.

とお天気キャスターが言うことがあります。これは「日本全土で晴天」ということです。気象用語としての fair は、晴れ、晴天、雲がないよい天気、好天を指します。sky だけでなくday につけて:

It's such a fair day.
(今日は本当にいいお天気、晴天ですね)

という風にも使えます。よい天気を表すのには fine の方が耳なじみがあるように思いますが、実は fine day よりも fair day の方が「快晴」により近い天気です(『ランダムハウス英和大辞典』参照)。航空・航海用語としても fair は活躍しています:

fair sea  (航路を遮るものがなく見通しがよい)
fair wind (順風(航行に適した風))

このように fair を見てきて、 思い出す漢字があります。 それは「佳」です。結婚式などで司会が

「このような佳(よ)き日にご結婚の祝宴が開かれますことはまことにおめでたいことでございます。」
It is such a pleasure to hold the wedding celebration on such a fair day.

という表現をすることがあります。この「佳き日」は、大安・友引などの吉日という意味で「佳(よ)い」に加えて、お天気が「佳い」ことも含まれています。「佳」の「つくり」の「圭」は元々、「土」をバランスよく△型(ピラミッド状、三角)に積んだことを示すものだったそうです。ここから、「美しく角が立っている」→「すっきりと形がよくととのった様子」を表すようになり、「だらしがない」の反対語にもなりました (『漢字源』学習研究社 )。つまり「佳人」は、ただ「美しい」だけでなく「すっきりと、きちんとした人」も意味するのです。

「佳人」は主に女性に使われますが、このような字の成り立ちを見てみると、男女問わず「佳い」人間でありたいと思わせる字ですね。このように見てきますと、「佳」という字は my fair lady にぴったりです。前回の fair も合わせて考えると、「公正なこと」とはバランスがよく、誰もがすっきりと納得できて、立つべき角は立っていて、丸く収まるところは丸く収まっている、というものなのではないでしょうか。加えて、「公正、fair」な行動には、「美しさ」も伴なっていなくてはいけないのですから:

In order to be fair, you have to not only be "even," but also be "beautiful".

fair のハードルは実に高いと言えるでしょう。