A Soulful Speech:
オバマ次期大統領の演説に響いた「ことだま」
アメリカで大統領選挙が行われ、オバマ氏が次期大統領に選ばれました。CNNの選挙特番を予約録画し、民主党の勝利とオバマ氏選出に関するコメンテーターの発言などをじっくり見て、びっくりしたことがあります。
それはオバマ氏の勝利演説の前と後で、スタジオ内の雰囲気ががらっと変わったことです。演説の前は、オバマ支持者、マケイン支持者との間で侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が繰り広げられていたのに、演説が終わりスタジオにカメラが戻ってくると、政治番組とは思えないほどの落ち着いた雰囲気になっていたのです。スタジオ自体が「しーん」と演説の感動の中にひたっているような趣さえありました。
オバマ氏の演説にはどんな「魔法」があったのでしょうか? 彼の使った英語に注目してみると、「声」に関係した単語や表現が多いことがわかります。
その中でも、まず
speak
に注目してみたいと思います:
■Barack Obama's campaign spoke to those who never cared about politics before this election.
(バラク・オバマの選挙キャンペーンは、今回の選挙までは政治のことを気にしたことなどないような人たちに語りかけた)
speak は「話す」という意味ですが、上の例文は選挙活動が人々の心に「語りかけた」という意味です。 このように speak には、心などに「触れる、語りかける」(参考:ランダムハウス英和大辞典)という使い方があり、アメリカでは政治家に、有権者の「心に語りかける・触れる能力」があるかどうか、という時などに多く使われます。
オバマ氏の演説の中でも、speak(spoke/spoken)が出てきました:
■ ...they believed that this time, must be different, that their voice could be that difference. It's the answer spoken by young and old, rich and poor, Democrat and Republican, black, white.......
(彼らは今回は違うはずだ、そして自分たちの声がその違いを生むと信じたのです。それは若い人、高齢者、富める者、貧しい者、民主党員、共和党員、黒人、白人……(彼ら)の答えによって明らかにされました)
(http://www.barackobama.com/2008/11/04/remarks_of_presidentelect_bara.php
以下オバマ氏演説引用はすべて公式サイトより。日本語訳はすべて筆者)
「(be)spoken by ~ (somebody/something) 」 で、 人・物によって何かの 「事実」 などが「物語られる」「明らかにされる」「伝達される」になります。
ここでは、アメリカの有権者が選んだ結果が、ひとつの事実・意見を「明らかに物語っている」ことをオバマ氏は言いたいのでしょう。
つづいて
voice
にも注目してみたいと思います。voice は名詞では「声」ですが、動詞だと「感情や意見などを言葉に表す、声に出す、表明する、宣言する」(参考:ランダムハウス英和大辞典)という意味で使われます。ここでは名詞形が用いられていますが、政治における「声」には深い意味があります。
日本語でも
「有権者の声」
と言う表現がありますが、よく似ています。
市民の主義・主張、普段は届かないけれど選挙の時にこそ響く「声」。勝利演説には先に挙げた部分を含めてこの voice が合計4回も出てきました:
2.
■And to those Americans whose support I have yet to earn,-I may not have won your vote, but I hear your voices, I need your help, and I will be your President too.
(まだ私が支持を得ていないアメリカ国民の皆さん、私はあなたの一票を勝ち取らなかったかもしれません、でもあなたの声は聞こえています、私にはあなたの助けが必要です、そして私はあなたの大統領にもなるのです)
3.
■She's a lot like the millions of others who stood in line to make their voice heard in this election except for one thing - Ann Nixon Cooper is 106 years old.
(彼女は今回の選挙で行列に並び自分たちの声を届けた他の数百万人の有権者と似ています、アン・ニクソン・クーパーさんが106歳だということを除いては)
4.
■At a time when women's voices were silenced and their hopes dismissed, she lived to see them stand up and speak out and reach for the ballot. Yes we can.
(女性たちの声がかき消され希望が失われた時代から、アン・ニクソン・クーパーさんは女性たちが立ち上がり声を挙げ、投票権を獲得するのを生きて目にしました。私たちにはできるのです)
2、3、4、 どれをとっても、オバマ氏の言う「voice」には特別な響きがあります。それは、この世に生を受け得た時代には、黒人であり女性であることから投票権を持っていなかった106歳のアフリカン・アメリカンの女性、アン・ニクソン・クーパーさんの話を紹介したことにより鮮やかになり、かつ深みが与えられています。
彼女の「声」が今回政治に「反映された」、つまり「届いた」ことには、忍耐と戦いの中でも決して希望を捨てることのなかった人間の 「魂」 が込められています。そして、彼女のように他の多くの「人権」獲得のために戦ってきた人々が「stand up and speak out(立ち上がり声を挙げること)」も同じように深い意味を持っています。
そうした人々の「声」、あるいは「求め」に対するオバマ氏の答えを象徴するのが
answer
です。
answer は数学の問題などの 「解答」 だけでなく、 より抽象的な「応え」を意味します。また、何かを「保証する、請け負う」という、より責任のともなう「応え」も含んでいます:
■This is our chance to answer that call.
(これがその求めに応じるためのチャンスです)
「求め」とは、未曾有の金融危機と実体経済の不況におののくアメリカ国民の様々な「求め」であり、「answer」はアメリカ全体の、そしてアメリカの信任を得たオバマ氏本人の「応え」です。つまり、オバマ氏は 「私はあなた方の求めに応じることを保証します」 と言っているのです。
問題はその「応じ方」ですが、ここにも「声」に関係した単語がキーワードになっています:
■I will listen to you, especially when we disagree.
(私はあなたに耳を傾けます、 特に意見が一致しないときにおいて)
日本語には「言霊」という言葉があります。私たちが発する言葉ひとつひとつには「たましい」がこめられていて、だからこそ「言葉」を大切にしないといけないということです。
オバマ氏はアメリカ人ですが、「ことだま」を大事にしようとする姿勢が彼の「voice(声、声を発する)」、「speak(語る、語りかける)」「listen(聴く)」「answer(応じる、応える)」といった単語の使い方に表れているといえるのではないでしょうか。







