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2008年10月 1日 (水)

英語の「負け犬」underdog は負けない!――「守り」と「攻め」のポリティクス

「攻めの30代」。私が30歳になったときに、知人から言われた言葉です。その方は「20代は美しく、30代は歯を食いしばって攻めて、40代は賢明に、50代以降は自由に」を生き方のモットーとされているそうです。

今のあなたの生き方は「攻めの姿勢」でしょうか、それとも「守りの姿勢」でしょうか?

この「攻め」「守り」という言葉は、「攻めに入る、守りに入る」など、バリエーションも豊富で、私たちの日々の会話の中で色々なことを伝えてくれます。

これを英語でどう言うのでしょうか?

よく使われるのは

play it safe 

という慣用表現です:

Mike is only playing it safe, he is never willing to take risk.
(マイクは守りの姿勢に入っているだけで、決してリスクをとろうとしない)

play it safe は 「大事をとる、 用心をする、 危険を冒さない」(ジーニアス英和辞典)という意味ですが、 only がついた上の例文では、「大事をとる」というよりは「守りの姿勢に入る」の方が訳としてより自然です。

<play> という動詞は、スポーツなどの「試合・戦い」によく使われます。 <fair play> などは「フェアプレー」としてカタカナ語にもなっていますが、やはり「攻め・守り(の姿勢)」も元々はスポーツに関係した表現です:

An underdog team plays aggressively, takes chances, makes bold moves and, gains the lead. But then something changes. Now on top, the team becomes afraid of losing its lead and abandons its aggressive attack, instead playing cautiously and conservatively. Rather than focusing on winning, the team begins to play not to lose.
勝ち目の薄い(underdog) チームが攻撃的(aggressive)にプレーし、 リスクをとり(takes chance)、 大胆な動きをし(makes bold moves)、リードをとる。 だがそこで何かが変わってしまうのだ。上位に立ったチームは今、リードを失うことを恐れて積極的な攻めを放棄し、その代わり、慎重で保守的なプレーをするようになる。チームは、勝つことに集中するよりも、けないための戦いを始めてしまう(守りの姿勢に入ってしまう)のだ)
(New York Times Weekly Review, Sep. 21, 2008 より引用)

上に出てきた underdog を辞書で引くと、「(生存競争の)敗北者、(社会的不正の)犠牲者、弱者;(競技などで)勝ち目の薄い人;負け犬」(ジーニアス英和辞典)とあります。

英語の underdog は日本語にある「負け犬」とは与える印象がずいぶん違う言葉だということに気づかされますね。

上の例文のように、元々「弱い立場」にあったチームや個人が、大方の予想を裏切って勝利を収める、という場合に、「挑戦者」という意味合いを込めて underdog を使うことが多くあります。

play not to lose 

これは直訳すれば「負けないために戦う」ですが、これだとニュアンスが伝わりにくい。一番言いたいのは、「負けを恐れて戦ってしまう」、要するに「トップの座に固執し、守りの姿勢に入ってしまう」ということです。

逆に:

play to win

は「勝つために戦う」という意味ですが、 <play not to lose> とセットで捉えると、「攻めのプレー(姿勢)」 ・ 「守りのプレー(姿勢)」として使うことができます。

例えば先ほど引用した記事はこう続きます:

Mr. Obama was an underdog who made his mark by being bold and creative. He took risks and challenged conventional truisms to capture the Democratic nomination. But sitting on a comfortable poll lead over his Republican opponent, Mr. Obama started playing not to lose. ... Until recently, it was John McCain who was the more traditional, safe candidate. When it came to vice presidential choices, however, Mr. McCain abandoned the safe play and instead gambled with his pick. Sarah Palin is lively, unconventional and intriguing.
(オバマ氏は大胆かつクリエイティブであることによって名を上げた挑戦者(underdog)だった。彼はリスクをとり、旧態依然とした固定観念(conventional truism)に挑戦し、 民主党の大統領候補の指名を勝ち取った。だが、共和党の対立候補に支持率で安定したリードをとると、オバマ氏は守りの姿勢に入り始めたのだ。……ジョン・マケインは、つい最近まで(オバマ)より型にはまった無難な候補だった。だが副大統領候補の選択に至っては、マケイン氏は守りのプレー(安全・無難な作戦)を捨て、賭けに(勝負に)出た。サラ・ペイリンは生き生きとしていて、型破りで、魅力的だ)

「挑戦者」= <underdog> だったはずのオバマ氏が、優勢に立った途端「守りの姿勢」に入ってしまい、皮肉なことにそれが今度は逆に彼を窮地に立たせることになってしまった、ということです。

<safe candidate><safe play> と、二回も出てきた <safe> は「安全な」 という意味ですが、「無難な」、つまり 「リスクを回避する」、あえて言えば「リスクをとらない」も表します:

play it safe    (安全にプレーする、守りに入る)

||

not take risk  (リスクをとらない) 

この二表現はほぼ同じ意味合いになります。

underdog は、 確かに立ち位置としては「負け犬」であるかもしれないけれど、 でも <play it safe> しない人、 つまり <play to win>、勝つための「攻めの勝負」ができる人、なのです。

日本の小泉元総理も海外メディアから underdog をよく使われました:

Mr. Koizumi, a rank underdog, snatched the leadership in 2001 only after a huge popular vote from party members forced the hands of the party bosses.
(まったく勝ち目のない候補とされていた小泉氏は、党員一般投票での圧倒的勝利が党の領袖をむりやりに動かす形で 2001 年の総裁の座をつかみ取った)
(The Economist, Sep.14, 2006 より引用)

この記事は、 ちょうど二年前、 当時の小泉元総理が自民党総裁としての任期満了で退任した時のものです。 タイトルに “Japan's Remarkable Minister”「日本の驚異的な総理大臣」とあるように、全体的に小泉政権を高く評価しました。

当初は、その小泉改革を続ける「攻めの政治」なのか、あるいは旧来の自民党政治に戻る「守りの政治」なのかが焦点になったかのように見えた今回の自民党総裁選。

でも結果的には <political kabuki> 「政治的歌舞伎」、つまり真剣勝負の政策論争がくりひろげられたのではなく「見せ物/ショー」に過ぎなかった、と海外から評されています。

「四度目のチャレンジ」でやっと自民党総裁選に勝ち、祖父、義理の父につづいて「天命」である内閣総理大臣の座についた麻生氏は、小泉元総理に負けず劣らず「不屈の人」と言えるでしょう(小泉元総理があっさりと政界引退を表明した今となっては……という所もありますが、それはさておき)。

その小泉氏は、「総理大臣」というトップの座に上り詰めても「抵抗勢力」や「官僚」という「敵」を生み出し、常に「挑戦者」としてのオーラを身にまといつづけることに成功しました。

つまり、

Mr. Koizumi, maintained his underdog position even at the top and kept “playing TO WIN,” and not “playing NOT TO LOSE.”
(小泉氏は、トップの座についてもなお挑戦者・負け犬としてのポジションを保ち、守りに入ることなく、攻めの姿勢をとりつづけた)

最後まで頭を抱えてしまうのが、この underdog の訳なのですが……「挑戦者」だとあっさりしているし、「負け犬」だと情けないし……悩みます。あえて言うなら「不屈の闘志を持ち再び勝ちに行く負け犬」でしょうか(笑)。

いずれにせよ、 underdog という言葉に出会ったときは、自動的に「負け犬」と訳さないように気を付けることが肝要でしょう。

最後にこの例文で終わりたいと思います:

Would Mr. Aso, after finally becoming Japan's Prime Minister, keep being a challenger, make bold moves to revive Japan, in a word play to win, or become more cautious and play not to lose? That is the question. 
(とうとう日本の総理大臣となった麻生氏は果たして、挑戦者でありつづけ、日本を再生するための果敢な戦略をとることができるのか、つまり攻めの姿勢、勝つための勝負をとることができるのか、あるいはもっと慎重になって守りの姿勢、負けないための勝負をとるのか? それが問題だ(ハムレット風に))