<金融危機>の before and after:
危機の前が <BC> って紀元前?!
最近とても興味深い表現を耳にしました。世界中を戦々恐々とさせている米国発の金融危機のなかで、じわりじわりと広がりつつある表現のようですので、 ご紹介したいと思います。 まずはこの例文(友人間の会話)をごらんください:
■A: “David was a 29 year-old trader who had a Porsche and lived up in the penthouse overlooking the Central Park, and dined in the fancy restaurants uptown.”
B: “Yes, but that is so BC.”
この <BC> という表現、聞いたことありますか? もちろん、歴史の授業で BC とは「紀元前」のことで、before Christ だと習いました。でも上に出てくる <BC> は「紀元前」だと意味が通らないですよね。訳してみましょう:
A: 「デイビッドは29歳のトレーダーで、 ポルシェを所有し、(マンハッタンの)セントラルパークを見下ろすペントハウス(高級マンションの最上部にあるとても広い部屋のこと)に住み、 高級なエリアのオシャレなレストランで食事をしていた」
B: 「うん、でもそれは超BCなことだね」
さて、何でしょう?
実はこの <BC>、金融危機と深い関係にあるんです。
この言葉が使われるのを私が初めて見たのは、イギリスの討論番組でのジャーナリストの発言でした:
■“Prime Minister Gordon Brown kept emphasizing the importance of continuous deregulation of the financial market, despite criticisms from the working class, and he was losing popularity for doing so. Of course it's BC. Now he is trying to present himself as a trustworthy professional in face of crisis, and it's working. The rates are up.”
(ゴードン・ブラウン首相は労働者階級からの批判にもかかわらず、金融市場の規制緩和の続行の重要性を強調していた。だがそれによって人気を失いつつあった。もちろん、それはBCのことだ。今の彼は、危機に際して信頼できるプロフェッショナルとして自分を見せようとしていて、うまくいっている。支持率は上がっているのだ)
*despite~ ~にもかかわらず
*for doing so そのようにしたことで
*present oneself 自分を(以下のように)提示する、見せる
保守党の新星、キャメロン氏に追い上げられていて、政権が持たないのではないかとまで言われていたイギリスのブラウン首相でしたが、彼は世界中を見渡しても数少ない、今回の危機でどちらかといえば「得」をした一人ではないでしょうか。彼の金融・財政面での経験が評価されて、ここにきて急に支持率が回復してきています。金融危機は、イギリスのみならずアメリカでも、経済の「経験と知識」があるのかどうかが大統領候補の新たな条件となり、政治へ影響を及ぼしつつあります。
このように、「金融危機」は世界の様子をがらっと変えてしまったことから、「紀元前・紀元」にちなんだコトバ遊びで、
before crisis = BC
という言い方が今、メディア、金融業界を中心に広がりつつあるようです。
以前にもご紹介しましたが、英語はとにかく単語数の多い言語なので、頭文字をとって省略する acronym (頭字語) をよく使用します。BTW は by the way、などなど。 色々な単語を組み合わせることでビミョ~なニュアンスを出すことができる言語なんですね。
この <BC> もとてもうまくできた acronym です。acronym 自体が、「紀元」の <BC> をかけているし、また「クライシス」 と 「クライスト」の発音とリズムが似ていますし(ちょっと不謹慎ですけれど)、「西暦が始まる」あるいは「ひとつの時代が終わった」ということで、事のインパクトの大きさを表現するのにもかなり効果的。とても秀逸な acronym と言えるでしょう。
上の討論番組では、 そのジャーナリストが発言したあと、 司会者(presenter)が、
■“Yes,‘before crisis,’that is!”
と笑いながらフォローを入れていましたので、まだ欧米でも流行はじめの表現のようです。
たしかに、今回の金融危機の影響でここ日本でも消費税増税論もそれどころじゃないっていう感じになってしまったし……金融を中心に動いてきた世界経済の大きな歴史的転換点であることは間違いありませんから、きっと今後 <BC> が使われる機会も増えるように思います。
さて、 <BC> とセットになっている「紀元」を表す <AD> ですが、 こちらは英語ではなくラテン語の anno domini の略で、「主の時代」を意味します。
この「金融危機」バージョンは、たとえば
after depression = AD
はどうでしょう? 「恐慌・不景気のあと」……なんだか落ち込みますが(苦笑)。 それでも、「紀元」 となぞらえるほどの大きな「金融危機」が、 これまで Wall Street に凌駕され、振り回されがちだった
Main Street (economy)
(実体経済;real economy が普通ですが、 Wall Street と対比してこう言われることが最近は多いです)
をきちんと反映しかつサポートできる本来の「金融」に原点回帰する契機となってくれることを期待するしかありません。







