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2008年9月17日 (水)

<指パッチン=snapping fingers>で 急に(snap)選挙?!

この連載もおかげさまで今回で50回を数えることとなりました。
この節目にあたって Express Yourself のバックナンバーに目を通してみたのですが、日本の政治は本当に同じ事を繰り返してばかりだな、と感じます。

たとえば、与野党の折り合いが付かず日銀総裁の座に「空白」が生じたことについて述べた回(2008年4月2日の記事)では、vacuum というコトバをご紹介しました。

「真空」「空白」という意味ですが、比喩的に何かの「不在」についても使われます:

 Leadership vacuum opens up at Bank of Japan.
(日銀にリーダーシップの空白が生じる)
(The Guardian, 18. Mar., 2008 より引用)

この vacuum、 最近では日銀どころか、日本政治全般について使われるようになっています。ニューヨークで新聞記者をしている友人からこんなメールをもらいました:

 What is going on in Japan's political vacuum?
(日本の政治空白はどうなっちゃってるの?)

Japan's political vacuum は、 日本政治について触れる海外ニュースではもはや常套句(cliché)と言っていいほど頻繁に使われます。 確かに、 二人の総理大臣が連続して一年足らずで「突然辞任」すると、もはや vacuum としか言いようがありません。

さて、 緊急にひらかれた会見で福田総理が、「辞任までひとごとのようだ」と記者に言われて 「あなたとは違うんです!」 と逆ギレしたことが各所で話題になっています。

この「ひとごと」は英語でどういうのでしょうか?

 He speaks as if everything is other people's affairs.
(彼はまるですべてがひとごとであるかのように話す)

 You say things as if it doesn't have anything to do with you.
(あなたはすべてが自分とは関係のないこと=ひとごとであるかのような物言いをする)

といった表現があります。

また「冷淡」だったり、「すべてをひとごとのように捉える人」という「ひととなり・人格」を表すには以下のような単語・表現があります:

distant 

《形容詞》 態度がよそよそしい、 冷ややかな、 隔てのある

使い方 : a distant greeting(よそよそしい挨拶)
            a distant way of saying(よそよそしい言い方)
             a distant speech(よそよそしいスピーチ)

(参考:『ランダムハウス英和辞典』)

     
distant はこのように、「ものの言い方」や「態度」について使われることが多いです。

 He seems like a distant person.
(彼は態度がよそよそしい人だ)

aloof

《形容詞》 […に]よそよそしい、冷淡な[from]

(参考:『ジーニアス英和辞典』)

                      
aloof は、<みんな>からふわ~っと遠ざかって離れたところにいて、どこか超然としているような雰囲気の人、なおかつ「冷たい」感じのする人、という印象を与えます。

 He remains/stays/stands aloof.
(彼はお高くとまっている=よそよそしい

 He stands aloof from the public that is suffering from the economic recession.
(彼は経済不況にあえぐ国民から遠いところにいる=無関心だ

indifferent 

《形容詞》  <人が>[…に/…に関して]無関心な、無頓(とん)着な  (unconcerned);  冷淡な、平気な [to,toward/as to, about]

(参考:『ジーニアス英和辞典』)

indifferentaloof よりも、 より「冷淡」の度合いが増す感じを与えるコトバです。有無を言わせず「関心がない」ことを表します。例えば、「政治家」 の 「国民感情」 に対する姿勢を aloof、indifferent を使って表現すると、aloof はまだ「ぼーっとしていた」 と言い訳ができる程度ですが、 indifferent になってしまうと、もう「本当に関心がない」ということで確実に有権者の反感を買ってしまう、といった違いがあります。

 He is indifferent to the public sentiment.
(彼は国民感情に無頓着・冷淡・無関心


話をいったんアメリカの政治家にうつします。

民主党の大統領候補、バラク・オバマ上院議員はセルフ・コントロールの達人で、怒ったり、情緒不安定になったりすることが「一切ない」そうです。感情に身を任せることは、自らの目標達成にマイナスになることであり、マイナスになることは一切やらない、というポリシーを貫いているそうです。

オバマ候補は自分の感情をコントロールすることまで「完ぺきにこなす」わけです。

ところがその「完ぺきさ」が実は、彼の支持率がいまいち伸び悩んでいることの原因ではないかと指摘する声がアメリカで出ています:

「本当は何を考えているのかわからないし、距離を感じる」

 Can't tell what he is really thinking and feels distant.

と考える ordinary Americans「普通のアメリカ人」 が多いそうです。つまり、完ぺきに「自分を客観視できる」のも考えものなのです。
  
ということは、「自分のことを客観視できる」と言いながら、はからずも「逆ギレ」するという、ある種矛盾した行動を取った福田総理は、オバマ上院議員に比べるとずっと「人間らしい」とも言えるのではないでしょうか:

 Compared to Senator Obama who has a complete control over himself, you can say that Prime Minister Fukuda,who snapped back at the reporter, is perhaps more human, more like the rest of us.
(自分自身を完全にコントロールできるオバマ上院議員に比べれば、記者に逆ギレした福田総理はおそらくもっと人間的で、より私たちに近いと言えるだろう)

この「逆ギレ」、辞典で意味を調べてみました:

逆ギレ(ぎゃくぎれ)  
     
(逆にキレることから)本来なら怒られるべき立場の人が、逆に怒り出してしまうことを俗にいう言葉

(『デイリー新語辞典』 )

と定義づけられていますが、なかなか対応する英語を見つけるのが難しいのです。

たとえば

misplaced anger

本来怒るべきでない人が怒る、矛先の間違った怒り

というのがありますが、これは心理学などの専門用語として使われることの方が多いので、少し違います。

snap at someone

(急に)~に向かってきついコトバで言う、ぴしゃりと言う、飛びつく

back を付け加えれば、より「逆ギレ感」が出るのではないでしょうか。

この snap 、コメディアンのポール牧さんで有名な「指パッチン」のことも意味します:

snap one's fingers 
              
(名詞句:finger snapping/snapping fingersなど)

です。 つまり、 snap はもともと、「パチン!」や「ピシャ!」という素早い動きを表す擬音語なのです:

 The branch snapped when he hung himeself on it.
(彼がぶら下がるとその枝はポキン(パチン)と折れた

 The box shut with a snap.
(箱がパチンと閉まった)

あるいは、下のように表現すれば日本語の「堪忍袋の緒が切れた」と同じ意味になります:

 After fighting with his girlfriend all night long, Jim's nerves finally snapped and he took off without a word of goodbye.
(一晩中彼女とケンカをした後、とうとう堪忍袋の緒が切れたジムはさよならも言わずに出て行ってしまった)

つまり、 snap という動詞は、「逆ギレ」という行為の衝動的なところにピッタリと合うのです。

また、 snap election で「降って湧いたように、急に行われる選挙」を意味します:

 Snap election likely to take place in Japan due to Prime Minister Fukuda's abrupt resignation.
(福田総理の突然の辞任によって、日本では総選挙が降って湧いたように/即座に/急に行われることになりそうだ)

このように振り返ってみますと、二人の首相がつづけて同じ事をするくらいなら、解散は一年前でもよかったんじゃないか、日本はこの一年を棒に振ったのではないか、とも言えます。

ただ、こと経済に関して言えば、一年前と今では大分状況が違います。

一年前、まるで日本は世界のお荷物のように言われていました。
ところが今はヨーロッパとアメリカが金融不況にあえいでいる一方で、日本企業のバランスシートはこの十年の努力で健全化し、不動産価格の暴落もなく、国内金融機関が消極的だったおかげでサブプライムの影響も限定的、ということで、世界の主要経済のなかで日本経済は一番早く回復するのでは……などとささやかれています。
(参考:The Economist, 4. Sep., 2008

皮肉にも、「政治の行き詰まり」から「改革に対しては保守的、不景気に対して無策」であったことが逆に日本を救うことになるのかもしれません:

 You can't just take a nation out of recession in a snap of fingers, but a head of state should not snap out of his office nonetheless. Yet it is true that Japan's political deadlock is in desperate need of a snap election.
指をパチンと鳴らしただけでひとつの国を不景気から抜け出させることはできないが、それにしても国家元首はその座を投げ出す(そのポストから飛び出す)ようなことはすべきでない。だが、政治的行き詰まりから、日本が今すぐにでも選挙を必要としていることは確実だ)