ミスター福田の「ベテラン内閣」、
veteran になると… backlash が始まる?!
暑中お見舞い申し上げます。もうすぐお盆休み、あとひといき! という感じですね。
ところが、福田政権はあとひといきどころか内閣改造を終えてこれからが正念場、いばらの道は続くようです。
この原稿は、改造当日の夜に執筆しているので、今回は「カイゾーin English」がテーマ。
世界は日本の一大ニュースをどう伝えたのでしょう。
AP通信やイギリスの『エコノミスト』の記事を見てみますと、まず「内閣改造」は
shuffling (もしくは reshuffling) of the cabinet
とされています。
shuffle とは日本語でも「シャッフルする」と言うように、「入れ替え」という意味で、組織などの改変に使われます。
今回の改造では、かつて大臣を経験したことがある「ベテラン議員」の「再登板」が目立ちました。実際、英語メディアの「内閣改造」を伝える記事には
veteran
という単語が目立っています。
日本語でも「ベテラン」と言いますが、「経験を積み、その道に熟達している人」(『精選版 日本国語大辞典』)でポジティブな意味合いが強いですね。でも、英語ではちょっとニュアンスが違います。
veteran は、たとえば a veteran of mechanics、veteran ofshoemaking など、「機械のベテラン」や「靴づくりのベテラン」など、「なにかのベテラン」ということで of~ と来れば「老練者・熟練者」という意味でカタカナ英語の「ベテラン」と同じ。
ところが、veteran には「古参兵・退役軍人・老練兵」の意味もあります:
Vietnam veterans
(ベトナム戦争退役軍人/ベトナム帰還兵)
Senator John McCain is a veteran of Vietnam.
(マケイン上院議員はベトナム帰還兵である)
U.S. Veterans in Iraq
(イラク在留の米軍古参兵)
今回の内閣改造に関する英語メディアの記事では、私が見た限りではどれも「熟練者(日本的な意味での<ベテラン>)というよりは「古参兵・退役軍人」に近いニュアンスで veteran を使用しています。
たとえば、こちらの『エコノミスト』の記事をご覧下さい:
The new team is packed with responsible veterans who favour cutting spending and increasing taxes to place Japan's economy on a healthier long-term footing.
(新チームは、長期的により健全な日本経済の基礎を作るために歳出削減・増税を支持する責任感のある veteran で埋め尽くされている)
Economist.com “Reshuffling the deck/Aug 1st 2008”
この部分だけを見ますと、確かに「熟練した人」というふうに取ることももちろん可能です。ただ、「古い時代の人が引っ張り出されてきた」というような日本語の「古参兵」にもあるややネガティブなニュアンスが実は本当のメッセージであることが次の文章でわかります:
The new team, despite being filled with old political soldiers, is promising. But can it actually carry through on serious policy? Probably not.
(政界の古参兵で占められてはいるものの、 新しいチームには期待できる(見込みがある)。 では実際に本格的な政策を実行できるだろうか? 多分無理だろう)
ここにはそのものズバリ「古参兵」という表現、old political soldiers が出てきます。 しかも、皮肉なことに、たしかに力量のある人材はそろった、と評価はしているものの、「政策を実行」できるかどうかに関してはぴしゃりと「否!」をつきつけています。要するに「評価できない」と言っているようなもの。
なぜ無理なのかと言えば、それは暗雲たれ込める世界経済から「ねじれ国会」、日本国民の「空気」にいたるまで、あまりに条件が悪いから、ということのようです。
きわめつけなのが、
old-guard
という表現。
Japanese Prime Minister Yasuo Fukuda picked a new cabinet today that combines old-guard legislators with several reappointments in an attempt to restore confidence in his leadership amid flagging public support.
(日本の福田康夫首相は、支持率が低迷する中、 指導力への信頼回復を目指し今日、 複数の再入閣者と伝統的な保守系議員からなる 新しい内閣を組閣した)
THE ASSOCIATED PRESS
canoe.ca“Japan's PM shuffles cabinet August 1, 2008”
アメリカで The Old Guard と言えば、 一般的には共和党内の保守派を表します。アメリカ以外の国では、フランス語の Vieille Garde の訳から「伝統的な保守派」を意味します。
つまり、「古い意見を持つ人、政党などの保守(反動)派」(ランダムハウス英和辞典)です。このような単語が使われる背景には、日本に対するどのような視線があるのでしょうか?
やはり、いろいろな論調を見ていると、海外から見た場合、金融を含めたビジネス全般において、日本はまだまだ「改革不足」:
Japan needs a further reform.
(日本にはもっと改革が必要だ)
という意見が大勢を占めるようです。ですから、知識も経験ある「政界の古参兵」が引っ張り出されてきた、確かに彼らに能力はある、でもこの危機的状況においては、「改革」への反動として登場した、と取らざるをえないし、肝心の政策も(ねじれ国会という現実的な障壁を含めて)期待薄である、というのが今回の内閣改造に対する海外メディアの本音と言ってよいでしょう。
「反動」は「反動勢力」など、日本語でもなにか新しいものが出てくると、それに抵抗する勢力、という意味で使われますが、英語では reaction。 ただ、reactionary となると「保守反動的」なので、政治的な色がついてしまいます。小泉元首相が使った「抵抗勢力」の方が訳として適当かもしれません:
Prime Minister Koizumi fought against the reactionaries in his party to carry out the reform.
(小泉首相は改革を実行するために党内の抵抗勢力と戦った)
ちなみに、reactionary(保守反動的)と、conservative(保守的)の違いは何でしょうか?
conservative は連綿(れんめん)と、 ずっと<保守>でいる人々、また彼らの政策について。
一方 reactionary というのは、 それまでの大きな流れが<リベラル>であったときに、その流れに不満な人々が<反動>として<保守的>になる、ということです。reactionary の方がより流動的、かつ不安定です。
では、保守でもリベラルでもどちらの方向でもありうる「反動」の場合なんと言えばいいのでしょうか? それは、
backlash
です。これは政治的には「ニュートラル」な言葉。ただ、反動の「力」としては reaction よりもずっと強く、たくさんの人がなにかについて急激に「否定的」な態度を取る、という意味。
たとえば:
The support for Senator Obama came as a backlash against President Bush's policy on Iraq.
(オバマ上院議員への支持は、ブッシュ大統領のイラク政策に対する強烈な反発・反動として生まれた)
ただ、「強烈な反発」といっても backlash の「強烈さ」はどうもうまく伝わりません。「一気に」「どっと」などを補った方がより正確に英語のニュアンスを保てます:
ブッシュ大統領のイラク政策に対する反発がどっと起きて、その反動がオバマ支持となった
というふうに。
アメリカ国民は、二大政党の間を backlash で行ったり来たりする、とも言われていますが、完全な二大政党制にはなってない日本ではそれほどはっきりとした backlash は起きないのでしょう。
でも、国民の我慢は間違いなく「限界」に来ています。
「日本型 backlash」 はじわじわと水面下で広がりつつあるのかもしれませんね。ということで最後はこの英文でしめくくりたいと思います:
One can only hope that Mr. Fukuda's “shuffle of the cabinet”won't be seen as “reactionary.” But if that is the case, then we might as well get ready for a huge backlash.
(福田総理の「内閣シャッフル」が「保守反動的」と 捉えられないように祈るしかありませんが、もしそうだとすれば、大きなバックラッシュに向けての心構えをしておいた方がいいかもしれません)







