Summit English:
CO2 の share、シャレにならないよ! by インド
北海道で開催されたG8サミットの取材で一週間、洞爺湖にいました。湖畔の涼しさにやっと体が慣れてきたころ、東京に戻ると今度は一気に厳しい暑さで、めまぐるしい議論の後はめまぐるしい気候の変化に翻弄されています。
夏バテ、してませんか? ちなみに今週末は夏土用です。
さて、振り返ってみると、そのG8サミットで全体的なキーワードとなった英語は
share
でした。
二日目の会談で主要8カ国が出した「共同声明」= Joint Statement にあった次の一文が世界的な注目を集めました:
We seek to share with all parties to the UNFCCC the vision of, and together with them to consider and adopt in the UNFCCC negotiations, the goal of achieving at least a 50 percent reduction of global emissions by 2050,...
外務省による和訳はこちら:
我々は、2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%の削減を達成する目標というビジョンを、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)のすべての締約国と共有し、かつ、この目標を UNFCCC の下での交渉において、これら諸国とともに検討し、採択することを求める
UNFCCC とはいわゆる「気候変動に関する国際連合枠組み条約」で、2007年の段階でこれを批准した国は191カ国に及びますから、 共同宣言の文書は、世界全体が50%削減に取り組んでゆくという、一見するとかなり画期的なことをうたっています。
ご存じの通り、CO2 の削減に関しては、アメリカ、ヨーロッパ諸国、そして発展途上国との間にそれぞれ大きなへだたりがあって、これまで議論はひたすら平行線をたどってきました。
その溝を埋めて、どうやって「価値観を共有」= share the values、するのかがサミットではポイントになったわけです。
ところが、このG8の共同声明をどう受け止めているのか新興諸国の中核を担うインドに取材してみたところ、かなりの温度差がありました。
声明が発表されてから3時間後、札幌で開かれたインドのメノン外務次官が開いたブリーフ(press briefing) では、 メノン氏はこの共同声明についてまずこう答えたのです:
I have not seen the joint statement yet, and I cannot comment on something which I haven't seen. I will be able to answer the question after going through the statement thoroughly.
(共同声明にはまだ目を通していません、まだ見ていないものに関してコメントすることはできません。声明を熟読してからお答えすることができるでしょう)
※go through ~ 文書などに目を通す
+thoroughly で「すみずみまで目を通す」「熟読する」「精査する」
なんと! これだけ先進諸国のメディアが上を下への大騒ぎをしているというのに、「まだ読んでない」とは!
でもそれこそが、新興経済諸国と先進国の間にある「気候変動」に関する温度差をストレートに表しているとも言えます。
G8首脳会合と時を同じくして札幌では新興国G5による首脳会合が開かれていて、そこでメインの議題となったのは
costlier fuel and pricier food=「コストと価格が高くなる一方の燃料と食糧の問題」でした。
つまり、議論の優先順位が異なるのです:
G8 nations have placed the issue of climate change high on their agendas, which was not the case with the emerging economies.
(主要八カ国では気候変動の議論の優先順位は高くされたが、新興経済諸国ではそうではなかった)
※ agenda 議題
議題のうち、どの位置にあるかによって「議論の優先順位」の高さ、低さを表現します。
「答えられない」と言ったメノン外務次官に対して、私は改めて共同声明のポイントを要約し、このように聞きました:
Which, from India's standpoint up until now, must be unacceptable, isn't it?
(それは、インドのこれまでの立ち位置からすれば、認めることはできないはずのものですが、そうではありませんか?)
※standpoint 観点・見方・視点・立脚点
メノン次官は気候変動に関するインド政府のこれまでの姿勢を繰り返し述べ、はっきりとこう答えました:
Naturally, any numerical target for the reduction of greenhouse gas is unacceptable for India. We have many other issues we must tackle such as poverty and rising food and oil price, and they are higher up on our agenda.
(当然ながら、インドは CO2 削減のいかなる数値目標も認める ことはできません。我々には、貧困や高騰する食糧・原油価格など、他により優先順位の高い、取りくむべき問題があるのです)
※greenhouse gas 温室効果をもたらす、ということでいわゆる CO2 のこと。
環境問題においては CO2 はたいていの場合、英語で greenhouse gas と表現されます。
このやりとりを聞いていたインドの記者がブリーフの後、私に話し
かけてきました。
My view on the issue of climate change is not only my personal view, it is shared not only by all Indian citizens, but also by the citizens of all emerging nations. The developed nations have been producing greenhouse gas freely to get to where they are, and now they are telling us to reduce, when we are just about to start developing. And we think that is plainly unfair.Anyone in the developing nations would tell you that,it is an apolitical issue.
(気候変動に関する私の意見は、すべてのインド市民だけでなく、すべての新興国の市民にも共有されるものです。 先進国は今の状態に達するために好きなだけ CO2 を出してきて、今になって、我々がやっと成長しようというときに減らせと言う。これはただ単純に不公平だと思うのです。発展途上国の人は誰だってそう言いますよ、これは非政治的な問題です)
※ freely 自由に、十分に、たくさんに、支障なく
※ apolitical 政治に無関心な、無関係な
apolitical issue(非政治的な問題)、つまり、意見の対立が新興国の間ではない、と言うのです。
なるほど改めてそう言われるとたしかに彼らの立場からするとそうなるのでしょう。つまり、インドなどからすれば、先進国の言っていることはやはり share(共有)できないのです。
その理由は、残り二つの share にあります。
それは、「分担・負担」という意味と、「分け前・取り分」という意味です。
新興国からすれば、
The developed nations have to do their share before telling us what to do on greenhouse gas.
(先進国は、温室効果ガスに関して我々に指図する前に自分たちがやるべきことをやるべきだ)
※ do (somebody's) share, do (somebody's) share of work
(誰々に)割り当てられた、相応の仕事をする、負担するべき分を負担する
そして、
Give us our share of success!
(我々にも成功の取り分を与えろ!)
というのが、やっと貧しさから抜けだそうとしている人々の心の叫びなのでしょう。
「共有」と訳すと見えなくなる英語の share の奥深さを考えさせられるサミットでした。







