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2008年6月 4日 (水)

<スマート>は諸刃の剣?
オバマはスマート、でもヒラリーは…

最近CNNなどアメリカのニュース番組を見ていると、 民主党大統領候補の指名争いでヒラリー・ロダム・クリントン候補がいつ「幕引き」をするのかが、連日取りざたされています。※【追記】6月7日昼(日本時間8日未明)、クリントン氏は選挙運動の停止を明言、オバマ氏への支援を表明しました。

そのクリントン上院議員に関するコラムで、こんな文章を見つけました:

Ya_2We know Hillary Clinton is smart, and so can we assume that… she has known, as well as anyone, that it is virtually impossible for her to become the Democratic nominee for President in 2008. So what could explain her continuing to battle…?
(私たちはヒラリー・クリントンが賢い(=smart)ことは知っていますから、彼女は自分が2008年の民主党の大統領候補になるのはほぼ不可能であることを誰よりもよくわかっていると踏んでよいでしょう。では彼女が選挙戦を続けていることはどう説明がつくのでしょうか?)

※本文を一部変えてあります。
Is Clinton's 2012 Campaign Under Way?

ここに出てきた形容詞の smart は、日本人がよく知っている「スマート」というカタカナ英語どおりの意味合いで使われています:

smart
頭の回転の速い、頭の切れる、賢い、利口な
(ランダムハウス英和大辞典)

他に、類語としては wise sharp があります。
「シャープ」は日本語でも「シャープな人」のように使います:

sharp
<人が>頭の切れる(よい)、鋭い、聡明な
(ランダムハウス英和大辞典)

という意味です。特に、議論の運び方、発言、論法などが「的を射た・機知に富む」という場合によく使われます。この場合、日本語では「鋭い・賢い」がまさに smart/sharp にあたります。

この smart sharp にはある共通点があります。
それは、<痛み>です。

sharp はかみそりの刃が「シャープ」、要するに<鋭い>と言うときに用いられますから、次の例文を見れば一目瞭然です:

Ya_2He was taken over by sharp pain when he accidentally cut himself with a knife.
(彼はあやまってナイフで自分を切ってしまったときに鋭い痛みに襲われた)

では smart はどうでしょう?
smart は形容詞として用いられるほうが一般的ですが、実は、動詞としての使い方もあるのです。たとえばこんなふうに:

Ya_2This wound will smart for a few days.
(この傷の痛みは数日続くでしょう)

前述の例文では、あやまってナイフで切ってしまったときの「傷」= wound が「痛む」という動詞で smart が使われています。動詞としての smart の意味はこちら:

smart 
(v.i.) <傷などが>(鋭く)痛む、うずく、ずきずきする
(ランダムハウス英和大辞典)

ちょっと意外な感じがしませんか? 日本人がよく使う「スマート」には、「痛さ」はありませんよね?

「鈴木さんはスマートな人だ」

と言ったとき、「鈴木さん」はきっと人間関係のトラブルなどもさらっとかわしてゆく、とってもさわやかな人だろうという印象を与えます。先述のヒラリー・ロダム・クリントン氏は、「頭の回転の速い、頭の切れる、賢い、利口な」人であることには間違いはありません。

が、果たしてクリントン氏にカタカナ英語の「スマート」は当てはまるのでしょうか?

「ヒラリー・ロダム・クリントンは<スマートな>政治家だ」。

う~ん…?
なんだかどうもしっくりこないような気がしませんか?

というのも、日本人がイメージする「スマートな人」というのは、人間関係において確執などをあまり起こさず、トラブルが発生しても適切に、あまり波風を立てずに、それこそ「スマートに」処理をする人だからなのです。

クリントン氏は、選挙戦中に対立候補のオバマ上院議員に対して

Ya_2Shame on you! 
(恥を知れ!)

と声を荒げて言ったりしたことが批判され、有権者に悪印象を与えたりした言動を見ると、到底「スマート」だとは言えないように思うのです。クリントン氏に関しては、たしかに経験もあるし、高い理想も持っているけれど、だからこそ頑張り過ぎて空回りしてしまい、有権者に「引かれて」しまっている、ということがよく言われます。

言ってみれば、少し「不器用」なのかもしれません。

一方、クリントン氏の「頑張り過ぎ」のように、英語の smart は過剰になってしまうとかえって毒になってしまうことがあります:

Ya_2Why do you always have to make smart remarks when meeting with our customers? It's a wrong place to show how smart you are.
(なんで君は顧客との会議でいつもこざかしいことを言わなきゃいけないんだね?自分の頭のよさを誇示する場所ではないんだよ)

smart remarks は直訳すれば「利口な発言」ですが、「こざかしい」「生意気な」というネガティブなニュアンスが入ることが多々あります:

Ya_2I'll teach you what happens when you try to get smart with me.
(俺に生意気なことをいうとどうなるかわからせてやる)

get smart with~ が人物にかかっているときは、 「生意気なことを言う」だけでなく、「だまそうとする」という意味まで含むこともあります。この smart のちょっと「ネガティブな頭のよさ」=「こざかしさ」を端的にあらわす言葉がこちら:

outsmart
(v.t.) 負かす、だます、裏をかく
(ランダムハウス英和大辞典)

まだどうなるかはわかりませんが、もしヒラリー氏が選挙戦から退くことを表明した場合は、オバマ氏はこんなふうに言われるかもしれません:

Ya_2In the end Senator Obama outsmarted Senator Clinton
by showing the voters that he is the one who always keeps composure, in turn making her look like someone who always overdoes on every occasion.

(オバマ上院議員は、常に落ち着きを失わないのは自分であることを有権者に見せることによって、クリントン上院議員はどんな状況でも常に何かを「やりすぎ」てしまう人のように思わせたことで、最後にはクリントン候補を出し抜いた)

<オバマ候補は、クリントン候補を「負かした」>と訳してもいいのですが、ヒラリーがどれだけ smart であっても、結果的により「賢かった」、あるいは「聡明」だった、ということで、あえて「出し抜いた」としたほうがより outsmart された、やりこめられてしまった、というニュアンスが出るので「出し抜いた」としました。

「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」と言いますが、

Ya_2Sometimes it's smarter not to be too smart.

利口過ぎないほうがより利口だということもある、ということでしょうか。

クリントン候補は、いたずらに選挙戦を長引かせると11月の本選挙で民主党にマイナスになってしまうため、オバマ候補に対して潔く負けを認めるべきだ、とかなり前から言われている中、いったいどうすれば「スマートな幕引き」を演じることができるのか、難しい選択を迫られていると言えるでしょう。