Oh~♪ 「不適切な発言」
Baby, I Want to Take It Back(撤回!)♪
最近、「撤回」という日本語をよく聞きます。特に日本の政治家から。
閣僚の「不適切な発言」を野党議員が「撤回しろ! 撤回しろ!」と追及したり、選挙公約を次から次へと「撤回」する知事がいたりと、日本政界で「発言の撤回」は大流行中。
これを Express in English! 。
英語で言ってみたらどうなるでしょう。
たとえばクリントン議員が医療保険制度の改革案について、「不勉強だったので、提案した医療保険政策は非現実的でした。公約を撤回します」と言ったとします:
I was ignorant, and my medicaid policy was unrealistic. I withdraw my pledge.
英語に直すと「トンデモ発言」な感じが強まると思いませんか?
そもそも、公に行った発言を「撤回する」などということは、アメリカの言語カルチャーになじまない行為なのです。
(仮に、クリントン候補が大統領に選ばれた上で医療保険制度の政策を「撤回」するようなことがあれば、おそらく彼女は be impeached =「弾劾され」、大統領職を追われてしまうのではないでしょうか…)。
では、「発言の撤回」に相当する英語をご紹介しましょう。
「陳述」「約束」などを「取り消す」「撤回する」場合は、少し堅い表現になりますが、 withdraw を使います:
I withdraw my remarks and apologize.
(私は発言を撤回して謝罪します)
意味として間違ってはいませんが、これが実際に使われることは滅多にありません。
というのも、 withdraw は法廷などの公的な場所で、提出された証拠や証言などを「削除する」ときに使われるコトバなので、かなり正式なものになるからです。やはり日本の政界やマスコミで頻繁に使われる「撤回」とは異なります。
私たち日本人が考える「発言の撤回」に意味的にいちばん近いものは、口語で使われる take back でしょう:
You should take back what you said about me, it was a horrible thing to say!
(君は僕に関していったことを取り消せ、ひどいことを言ったんだから!)
このように、主に他人から人格を否定されたときや、誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)されたときなどに、その発言を「撤回せよ」という意味で take back が使われます。
アメリカ映画やドラマのケンカシーンで、侮辱された側が、相手に向かって、
と必死の形相で叫んでいる場面って、けっこうあります。気にして見てみてはいかがでしょうか。
もうひとつ、 eat one's words という表現もあります。
直訳すると、「自分の言葉を食べる」となりますが、まさにその通
り。「前言を取り消す」という意味に使われます。
気をつけないといけないのは、 make (someone) eat one's words =「前言を取り消させる」のように、 make や force をともなって、【誰かに「強制され」「やむを得ず取り消す」】という使われ方が多いことです:
If you make too definite a statement at this point, you may later end up having to eat your words.
(この時点であまりはっきりしたことを言うと、あとになって前言を取り消すというはめになりかねない)
文では、 eat one's words がまるで「脅し」のように捉えられていることがわかります。 つまり、アメリカ人にとって、 eat one's words 、 「自分の言葉を食べる」ことはとても「不名誉」なこと。
また、 back down という表現もあります。 事業から「手を引く」( Mitsubishi Electric 【backed down】 from its mobile handset business. =「三菱電機は携帯電話端末事業から手を引いた」)という意味で使われることが最も一般的ですが、「非を認める」を意味することもあります:
The senator backed down on her contention that the tax on gasoline is too high.
(議員はガソリン税が高すぎるという主張を取り下げた(撤回した))。
語の「撤回」はニュートラルな言葉ですが、英語の back down はそもそも「引き下がる」ですから、「非を認める」というネガティブなニュアンスを元から含んでいます。
なぜでしょう。答えは簡単。「前言撤回」や「発言撤回」は自分の非を認めることになるからです。
「アメリカ人は謝らない」とよく言われますが、それと同じで、そうやすやすと自分の発言を「撤回」することもないのです。
撤回するとしても、 Take it back! のように、 感情にまかせて口走ってしまった罵言雑言や、事実と異なる「間違い」を犯したときなど、明らかに自分に非があるようなときに限られます。
その代わり、もし間違っていたことがあとで指摘されたらどうするかというと、よく使われる表現が:
I didn't mean it in that way.
(そういう意味で言ったんじゃない)
(笑)。これ、本当によく聞きますよ。他にもあります:
It depends on the way you look at it.
(それは見方によるね)
It depends on your point of view.
It depends on your perspective.
(それは視点・見方による)
It depends on where you are standing.
(それは立場による)
などなど、英語には論理的に「言い訳」= excuse を構築できる表現がたくさんあります。
こと「言い訳」や「釈明」的な話になると、日本人顔負けの「びみょ~」なニュアンスを伝えられる表現がとっても豊富。
ひとつ、よい(?)例があります。
最近話題になった、オバマ大統領候補のスタッフだったサマンサ・パワー氏の「ヒラリーは怪物」発言。
批判を浴び、ついには辞任に追い込まれましたが、彼女がオバマ事務所を去るにあたって発表した謝罪コメントを見てみましょう:
With deep regret, I am resigning from my role as an advisor of the Obama campaign effective today. …Last Monday, I made inexcusable remarks....And I extend my deepest apologies to Senator Clinton, Senator Obama.
(深い反省の念を持ち、今日を持ちまして私はオバマ選挙事務所のアドバイザーとしての役職を辞させていただきます。 先週月曜日、私は弁解の余地のない発言をしました… クリントン議員とオバマ議員に深く謝罪します)
regret は、「後悔する、悔いる、残念に思う」ですから、「残念」と思われることが多いですが、「悲しみ・哀悼」の意味もあり、なにかを「謝っている」場面で用いられる regret は、日本語の「反省」に近いので、「反省」と訳しました。
regret は相当「反省」しているときに使われる言葉ですし、正面から自らの「非を認め」た上で、「辞任」という形で「責任」を取っています。
これは「完敗」と言えますが、むしろ、その潔さが「同情票」を集めた結果、早めの火消しがオバマ候補の足を引っ張らずに済んだようです。
ところが!
これだけ謝っておきながら、パワー氏は「モンスター発言」を「撤回する」とは一言も言ってません!
しかも、別のインタビューではこんなことを言っています:
Of course I regret them. I can’t even believe they came out of my words.
(もちろん反省(=後悔)しているわ。あんなコトバが私の口から出て来たってことを私自身信じられないくらいだもの)
あろうことか「私の口から出て来たってことが信じられない」と来ました。
もちろん、それくらいの「トンデモ発言」だということを「認識」している、という意味で言っているのでしょうが、ある種の「言い訳」と取れなくもないですよね。
「本心ではヒラリー候補のことを<モンスター>だと思ってるんだろう」というツッコミが各所から入ったようですが、「あの発言は事故のようなもので、本心ではない」という風に逃げられます。
一方で、「いやヒラリーは本当に<モンスター>なんだから、真実を突いたパワー氏はあっぱれ!」なんていうエールを送る人に対しては「腹の底の本音が出ちゃったのよ…」と密かに伝えることもできるワケです(笑)。
(いずれにせよパワー氏には「確かに自分で言っているじゃないか!」というツッコミが入ってしかるべきかと思いますが…)
しかも、彼女の発言に関するアメリカ国内のコラムや社説を見ても「発言を撤回しろ」という主張は見当たりません。
誰も「発言の撤回」など求めていないし、本人も「撤回」などはなから頭にありません。なぜって、言ってしまったことは既に起きてしまったこと。事実を消せるわけではないからです。
本来、自分の発言に伴うリスクは、当事者がきちんと背負うべきもの。
だからこそアメリカの公的な立場にある人々は、自分の発言にツッコミが入ると、とことん論理的に応戦します。
政治家であればなおさらです。
有権者は自分が選んだ人物の主張について、よく知る権利があります。そして、パワー氏のようにどうしても弁解の余地がないときは、きちんと落とし前をつける。
考えてみると、ほいほいと「発言を撤回」できる日本の一部の政治家は、言ったことをなかったことにできるという特殊な発話機能を持っている進化した人類なのか、もしくは机の引き出しにタイムマシーンを隠し持っていて過去を変えることができるかのどちらかでしょう。
軽々しい「発言の撤回」が横行すれば、「何でもアリ」の政治カルチャーになってしまう危険性があります。
すぐ折れる日本人、なかなか折れないアメリカ人の特徴が「発言の撤回」を English と日本語で検証することによって浮かび上がってきました。
どちらがいいとも言いませんが、どれだけ「言い訳」がましく聞こえても、自分の「コトバ」とその正しさにどこまでもこだわって戦うアメリカ人の姿勢に、学ぶべきところもあるのでしょう。
それはつまり、「コトバの重み」があるからこその「戦い」なのですから。








